首相廃炉要請 東電破綻処理を避けるな


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 安倍晋三首相が東京電力に対し福島第1原子力発電所の5、6号機を廃炉にするよう要請した。

 事故を起こした1~4号機の汚染水問題に集中するためというのが名目だが、首相のパフォーマンスの印象だけが残る。
 アルゼンチンで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会で、首相は汚染水問題について「コントロールされている」と強弁した。
 しかしこの発言に対しては、汚染水が海洋に流出し続けている実態とはかけ離れているとの疑問や批判が渦巻いていた。
 安倍首相は今回廃炉要請することで、汚染水問題に政府を挙げて取り組む姿勢を国内外に示す思惑だったようだが、しかしこれで汚染水問題解決の見通しが明るくなったわけでも何でもない。
 そもそも5、6号機の廃炉は当然視されていた。汚染水対策を引き合いに、廃炉要請でさも重大な決断を下したかのように首相が振る舞うこと自体がおかしい。
 本当に重大な決断を示すのであれば、東電を破綻処理させ、国の責任で汚染水対策や廃炉に向けた作業を本格化させるときではないのか。そして、原発再稼働や原発輸出の方針を転換させ、脱原発社会を目指す姿勢を明確にすることこそが、福島の事故を教訓とする誠実姿勢であり、国際社会からの信頼回復にもつながる。
 破綻処理をしなければ、東電は賠償費用を削るか、事故対策費を抑えてその場しのぎの対応を続けてしまう。原発再稼働に血なまこになるか、電気料金を上げるという安易な方向に流れるだろう。
 政府は電力会社の廃炉決断を促すため、会計規則の改正も検討している。廃炉に伴う損失を一括計上する仕組みでは経営を圧迫するため、運転終了後10年間の引当金の積み立てを認めるものだ。
 しかしこれにも、電気料金に上乗せする形で引当金を積み立てるのは、消費者に新たな負担を強いるとして批判も強い。東電存続が前提で、国民の納得と支持が得られるのか。
 一昨年8月、参院特別委員会で原子力損害賠償支援機構法案が可決された際の付帯決議は「本法は東電を救済することが目的ではない」と明記し、東電の在り方については事故の収束状況などを見ながら検討するとしている。
 まさにその時期に来ているということを、政府は認識すべきだ。