無断加筆 もはや「捏造」に等しい


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 何かを主張したければ、自身の名の下に、自身の責任で主張すればいい。誰かの発言のように装って主張するのは卑怯(ひきょう)である。

 米ニューヨーク・タイムズ紙の元東京支局長の著書「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)で、「日本軍による『南京大虐殺』はなかった」と主張した部分は、著者に無断で翻訳者が書き加えていたことが分かった。
 このような行為はもはや「編集」とは言えず、「捏造(ねつぞう)」に等しい。少なくとも現行の本はいったん回収し、無断加筆した部分を削除して、版を改めて発行すべきだ。
 問題の部分はこう記す。「歴史の事実として『南京大虐殺』は、なかった。それは、中華民国政府が捏造した、プロパガンダだ」
 これに対し著者のヘンリー・ストークス氏は「そうは言えない。(この文章は)私のものではない。大虐殺と呼べないにせよ、南京で何か非常に恐ろしい事件が起きたかと問われれば、答えはイエスだ」と明言している。
 翻訳者の藤田裕行氏は「『南京大虐殺』とかぎ括弧付きで表記したのは、30万人が殺害され2万人がレイプされたという、いわゆる『大虐殺』はなかったという趣旨」と言うが、ストークス氏は「訳の分からない釈明」と一蹴する。
 そもそもこれはストークス氏単独の著書という体裁だが、大部分は同氏へのインタビューを基に藤田氏が日本語で書き下ろした。藤田氏はストークス氏に詳細な内容を説明しておらず、日本語を十分に読めないストークス氏は、取材を受けるまで問題部分を承知していなかった。このような手法が許されるのか。
 録音を文書化したスタッフは、ストークス氏の発言が「文脈と異なる形で引用され、故意に無視された」ことを理由に辞めたという。
 藤田氏は南京大虐殺や従軍慰安婦を否定する保守派団体「史実を世界に発信する会」の中心人物の一人だ。自分の著作で書くのでなく、あえて今回のような体裁にした理由について「外国特派員がこういう話をしたら面白いと思った。私が書いたら『あれは右翼だ』と言われる」と説明する。
 この団体の加瀬英明代表も、韓国人著者の原稿に大幅な加筆修正をしたとして批判されたことがある。そんな手法を意図的に繰り返しているとすれば、看過できない。