<社説>香港長官選挙 自己決定権を尊重せよ


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 香港トップの行政長官選挙をめぐり、中国政府が示した制度改革案に抗議していた数万人の民主派市民や学生が幹線道路を占拠した。

 香港警察は催涙弾などを用いて強制排除に乗り出した。さらに大規模な衝突に発展して流血の事態を招かないよう、香港政府は自治の確立を求める民主派との話し合いによる解決を模索すべきだ。
 そもそも、今回の事態が生じたのはなぜか。
 英国と中国が1984年に合意した香港返還の条件は、中国本土よりも広い範囲で政治的な自由を認めることにあった。だが、ことし8月に中国政府が示した選挙の仕組みは、民主派が排除されることが確実な内容になっている。
 「高度な自治」の実現を期待する市民は多い。香港の民主主義が危ぶまれ、住民参加による自己決定権の確立が閉ざされかねないことに反発が強まるのは当然だ。自治を骨抜きにしてはならない。
 習近平政権は民主化のうねりが中国全土で高まることを恐れているはずだが、話し合いもせずに力で抑え込むのは強権そのものではないか。
 習主席は香港の自己決定権を尊重した選挙を実現すべきだ。
 香港は「一国二制度」の下、高度な自治が容認されている。次回の2017年の長官選から1人1票が割り当てられる「普通選挙」が実施される予定だ。
 民主派は、市民から一定の支持を集めれば、誰でも立候補できる制度を求めていた。だが、中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は8月末、事前に最大で3人の候補者に絞り込む新制度を発表した。
 候補者は新設される指名委員会による指名が必要となる。親中派が占める委員会での民主派の指名はほとんど絶望的で、中国寄りの人物しか立候補できないだろう。
 これに反発した民主派は選挙制度の撤回や、停滞している政治改革のやり直しを求めていた。中国の建国記念日「国慶節」の10月1日に市街地を占拠する計画だったが、民主化を求める学生と警官隊の衝突で70人余が逮捕されたことで抗議が広がり、前倒しされた。
 習政権は強硬策一辺倒で対処してはならない。世界7位の経済競争力を持つ香港の民主主義を土台とする活気を失わせることは、中国のイメージダウンを招く。その損失の大きさに気付くべきだ。