<社説>「辺野古」約束違反 埋め立て承認は無効 新基地建設撤回すべきだ


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設による新基地建設で、前知事が埋め立てを承認した際の事実上の前提条件を、政府が次々とほごにしている。

 約束違反の一つは、負担軽減策として要求された普天間飛行場の5年以内運用停止を政府が無視する姿勢を示していることだ。
 もう一つは、前知事の求めで設置した環境監視等検討委員会の意見を政府が尊重していないことである。
 前知事と約束した事項を政府が守らないことで、埋め立て承認の大前提は崩れている。政府は新基地建設計画を直ちに撤回すべきである。

行政の継続性どこへ

 政府は4月下旬にワシントンで開かれる日米の外交・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同声明に、普天間飛行場の5年以内の運用停止を盛り込まない方向で作業している。
 安倍晋三首相は5年以内の運用停止要求など県の要望について、埋め立て承認を得た直後の2013年12月、「知事との約束は県民との約束だ。できることは全てやる」と述べた。
 にもかかわらず「県民との約束」を、ほごにするとはどういうことか。政権が変わったわけではない。安倍首相自ら約束したことである。安倍首相にとっての「約束」は何もしないということなのだろうか。
 菅義偉官房長官は事あるごとに「行政は継続性が重要だ」と述べてきた。その言葉を政府自身がかみしめるべきである。
 翁長雄志知事の辺野古移設断念要求に対し、政府は前知事から埋め立て承認を得たことを錦の御旗に掲げて作業を強行している。埋め立て承認の前提条件を無視しておきながら、承認を得たことだけを持ち出すことに正当性はない。
 政府は最初から5年以内の運用停止に真剣に取り組んでこなかった。5年以内の起点を確定するまでに9カ月を要したことからも明らかである。
 菅官房長官や中谷元・防衛相は最近になって、5年以内の運用停止の実現は全国の協力を条件に挙げるようになった。約束を履行できない責任を転嫁する姿勢以外の何物でもない。
 在沖米軍トップのウィスラー四軍調整官は14年4月、5年以内の運用停止の実現性について「答えはノーだ」と明言した。
 政府も米側の考えは分かりきっていたはずである。実行できないことを知りながら約束していたとしたら、悪質である。不誠実極まる対応を許すことはできない。

形骸化した検討委

 沖縄防衛局が辺野古海域に設置した大型コンクリートブロックによって94群体のサンゴを破壊していたことが明らかになった。
 環境保全を担保するために前知事の求めで、防衛局が設置した環境監視等検討委員会は形骸化していると言わざるを得ない。
 第3回会合(1月)で委員からアンカー(重り)を重くするだけでなく、台風前に浮標灯(ブイ)を引き揚げるなどの対応を求める意見が出た。
 だが防衛局はその3週間後、大型コンクリートブロックを投下している。防衛局が意見を尊重していれば、サンゴ破壊は避けられただろう。
 防衛局は委員会の指導・助言を受ける立場である。委員の意見に聞く耳を持たないとあっては委員会を開く意味はなかろう。結論ありきでは委員にも失礼である。
 政府は「周辺環境への影響を最小限にとどめるよう配慮している」との答弁書を閣議決定している。現実との乖離(かいり)はあまりに大きい。
 前知事が求めた前提条件を政府は一顧だにしていないことが次々明らかになっている。政府は埋め立て承認を得るために前知事を、よもや利用したのではあるまい。
 政府が約束を履行しない以上、埋め立て承認は当然無効である。