<社説>タイ爆弾テロ 政治対立解消こそ解決策だ


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 やはり「力による支配」は見せかけの安定に過ぎなかったのか。17日に爆弾テロが起きたタイの首都バンコクの治安のことだ。

 外国人観光客も多く訪れる首都の繁華街で爆発があり、日本人1人を含む125人が負傷し、20人の命が奪われた。無関係の一般市民を巻き込んだテロは許されず、背景の解明を含め一刻も早い解決を願う。
 タイでは2001年に北部の農民を支持基盤とするタクシン政権が発足して以降、首都の富裕層を中心とする反タクシン派との間で10年余も対立が続いてきた。2014年5月にはクーデターで軍事政権が発足した。それ以降、軍による鎮圧で両派のデモは沈静化した。表面上、治安は安定したように見えた。
 昨年のクーデターの直後、軍は政治対立解消が不可欠として、国民和解のため「タイ人に幸せを取り戻そう」作戦を全国的に実施した。歌や踊り、飲食の無料提供、地域リーダーの意見交換会など、主張が異なる人々に時間と経験を共有してもらう狙いだった。
 現政権はクーデター後、新憲法制定や人身売買、麻薬問題解決に取り組むことを打ち出している。過去10年余の政権が指摘された金権政治や既得権益層保護から脱却し、国民融和を目指す方向性は間違っていない。
 今回の爆弾テロに犯行声明は出ておらず、背景はまだ不明だ。しかしクーデターに反対する政治勢力や分離独立を掲げる南部のイスラム原理主義組織などが存在し、クーデターで誕生した軍事政権への不満は高まっているとされる。
 事件は水面下に潜む政治対立が再び浮上した可能性もある。クーデターで誕生した現政権は事件の背景解明と同時に、改革を進めてもらいたい。新憲法制定と民主的な手続きによる安定的な政権樹立こそが対立の解消、ひいては治安の回復につながるはずだ。
 タイと日本は経済的、文化的なつながりも深い。沖縄の泡盛も源流はタイにあるとされる。バンコクに4万人、タイ全土には6万人の日本人が住む。1500社を超える日本企業が進出し、日本人観光客は年間100万人を超える。日本にとってタイは決して遠い外国ではない。
 無関係の人々を巻き込む惨事を再び起こさないためにも、タイ国内の改革へ国際社会と協力して日本も力を貸すべきだ。