<南風>決まりを守らない能力


社会
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 県外からの移住者に「どうして沖縄の人は車の方向指示器を出さないの」と尋ねられたことがあります。私自身はそう感じていませんでしたが、「決まりを守らない」という点については思い当たる節がありました。

 それは、趣味でヤギを養っている家に行った時のことです。「良いところに来た」と、家主のおじいちゃんに満面の笑みで台所に通されると、「はい、これ食べなさい」と、なんだかブヨブヨした肉を出され、口にすると大変な美味。

 おいしいと驚く私に、「これはヤギの脳みそ。普通は食べられないよ」と自慢気なおじいちゃん。こりゃあラッキーだと食べていると、ふと「と畜場法」のことが気になり、おじいちゃんに申請しているのか尋ねました。家庭用の食肉処理については申請すると許可されるからです。

 すると、おじいちゃんは大笑いして「お前はお上か。俺が食べるのに許可もクソもあるか」。このような「決まりが何であれ自分の決断こそ全て」という人が沖縄には多い気がします。そして語弊を恐れずに言うと、それは素晴らしい力だと思います。

 これこそ戦後の混乱の中、沖縄を建て直した方々が体得した力で、先進国では薄れゆく能力です。

 というのも、数年前の韓国修学旅行船の沈没事件で、船が傾いても言われた通り部屋にいて亡くなった子や、先日の台風で避難勧告が出なかった地域での被害などを見ていると、命を守るのは役所や法律ではなく、決断力だと思うからです。

 さて、冒頭の方向指示器問題。「方向指示器を出さない人がいる、という前提で運転すると予測能力も開発されていいよ」と答えると、知人は「それ、いいね」と笑ってくれました。怒られるかと思いましたが、言ってみるもんですね。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)