20年以上前の2001年に初放送され全国的な「沖縄ブーム」のきっかけとなった、NHKの朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」。4月から再放送され、あらためてお昼時に沖縄の空気を届けている。
懐かしさとともに見返している人、新鮮さとともに初めて見る人などさまざまだろうが、再放送開始直後からSNS上でにわかに話題になっていることがある。ドラマの冒頭の映像に映る島についてだ。
オープニングの冒頭、海に浮かぶ島に「ちゅらさん」の文字が一文字ずつ並ぶ。この時、背景に小さな島が映る。この島は「入砂島」。那覇市の北西約62キロに位置する渡名喜村の島。入砂島は島全体が米軍の「出砂島射爆撃場」となっている無人島で、一般人は「立ち入り禁止」の島だ。
「ちゅらさん」の舞台のひとつになっているのは八重山諸島のひとつ「小浜島」のはず。なぜ「小浜島」ではなく「入砂島」がオープニングに使われているのか。SNS上では映像が入砂島であることや、射爆場という事実に「知らなかった」や「なぜ」「つらい」といった反応のほか「基地問題は重要だけど、沖縄の素晴らしさを発信してくれた作品」「気にしてくれる人が増えてよかった。ドラマのおかげ」などさまざまな反応が上がっている。
なぜ「入砂島」がオープニング映像に使用されているのか。20年の時を経て、当時を知る関係者に取材した。
当時、制作統括を務めた菅康弘さんは「ドラマ全体のテーマとして、命、つながり、家族と決めた。それを表現するオープニングの映像にしてほしいと当時のディレクターに伝え、できあがったのがあのオープニングだ」と語る。菅さんは「オープニング映像のストーリーとして、最初は何も生き物がいない島に段々生き物が住むようになり、最後には人も住むようになったストーリーを作りたいと思った」と振り返る。
実際、ちゅらさんのオープニング映像は、生命の起源である海の中からはじまり、植物、動物、そして最後に人間という流れで展開されていく。
当時ディレクターとして実際の映像を作り上げたのが現在、NHKメディア総局第3制作センタードラマ統括副部長の遠藤理史さんだ。遠藤さんは「最初は生命のはじまりなので『何もない島=無人島』である必要があった」とし、当時那覇からヘリを飛ばし、さまざまな島を撮影したという。
コンピューターグラフィックスなどではなく実写の映像で「テレビ画面内に納まるサイズ感の島」も条件だった。小浜島では大きすぎて撮影に高度が必要で厳しかった等の事情もあり、最終的に入砂島に決まったという。
「入砂島は米軍の射爆場という現実がある。米軍基地の長年の負担が続く沖縄から見れば、負の側面がある。沖縄の歴史や背景を踏まえると、あの島を使用したということは、メインストーリーの狙いの他に何らかのメッセージも込めたのか」。直球の疑問をぶつけてみた。
遠藤さんは「今のようなSNS上での議論が一般化した時代とは異なり、当時は映像の背景や意図を説明する必要はなかった」と、初回放送当時と現在の話題の生まれ方の違いに感慨深さをにじませた。その上で「どのように読み取っていただいてもありがたい。明解に正解が分からないから楽しい、楽しめる。(見る側に解釈や議論の)余白を残しているのも、タイトルバックのあり方のひとつではないか」と語った。
初回放送から20年超。古くなるどころか時代の変化とともに、話題の舞台をSNS上にまで広げて注目を集める「ちゅさらん」。その影響力の大きさをあらためて感じた。
(仲井間郁江)