沖縄のアメリカ人はなぜ「ココイチ」が好きなのか 本島中部でよく目にするあの光景のナゾに迫った 


沖縄のアメリカ人はなぜ「ココイチ」が好きなのか 本島中部でよく目にするあの光景のナゾに迫った 
この記事を書いた人 Avatar photo 石井 恵理菜
米軍基地に近い沖縄本島中部のある店舗=5月、県内

「なぜアメリカ人はこんなにココイチが好きなのか」。沖縄本島の中でも米軍関係者が多く住む中部地域の担当記者である私は、普段、ココイチの店舗やその周辺が外国人で混み合っている光景を目にする度に不思議に思っていた。

ココイチは愛知県一宮市に本社を置く壱番屋が展開する「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)。言わずと知れたカレーの大手チェーンだ。沖縄県内には14店舗があるが、北谷町など本島中部地域にある店舗の駐車場は常に米軍関係者の車両「Yナンバー」でいっぱいだ。

「うちの店、全国一忙しいってよ」。記者は、かつて北谷町内のココイチでアルバイトをしていた友人の言葉を思い出した。ネット上には、ココイチの全国売上高トップ3全てが沖縄の店舗との情報も出回っている。そこで真相を確かめるべく取材を始めた。

(石井恵理菜)

ランキング「非公表」、しかし

本当に上位3店舗は沖縄の店舗なのか。壱番屋の広報担当者にオンラインで取材した。

「残念ながら最新の売上高ランキングは公表できません」

広報によると、今年からランキングを公表しないことに決まったという。

「店舗によって席数はバラバラで、ウナギの寝床のように細い都心の店舗から、沖縄のような大きいボックス席のある店舗などかなり幅があります。順番に並べることはできますが、あまり意味がないランキングなのです」

ただ広報担当者は繰り返した。

「沖縄は全体として高い傾向にあります」。

2レーンが設置された店舗のドライブスルーエリア=5月=県内中部

トッピングと車社会

同社広報の分析によると、沖縄の店舗の特徴として

「米軍のお客さまにかなりご来店いただいています。基地の近くの店舗はほとんどが米軍関係の方です。チキンカツを2枚、3枚とトッピングする方や、サイドメニューとしてナンを注文する方もいらっしゃいます。お一人当たりの購入金額が高い傾向にあり、それに伴って売上高も高くなっている形でしょう」

同社ホームページによるとトッピングは、カレーソースも含め計12億通り以上になるという。

またテイクアウト需要の高さも特徴だ。

「アメリカは車社会のため、ドライブスルー文化が根付いています。ココイチ全体で言うと、コロナ禍では店内飲食のお客さまの客数がかなり落ちました。一方、沖縄の店舗はもともとテイクアウトやドライブスルーの比率が高く、コロナ禍でも売上を維持できました」(広報担当者)

ある店舗の社員によると、米軍関係者の中にはカレー20食分を箱に入れて持ち帰ったつわものいたそうだ。

テイクアウト需要の高さは、店舗の設備にも表れている。米軍嘉手納基地や米軍キャンプ・フォスターに近い、北谷町の沖縄北谷国体道路店と沖縄北谷ハンビー店の2つは、国内で唯一ドライブスルーが2レーンも設けられている。

また1994年にオープンした沖縄北谷国体道路店は、米軍関係者の人気がかなり高かったことから、駐車場が広い現在の場所に移転した歴史もある。

カレーをテイクアウトしたアメリカ人女性=5月、沖縄県内の店舗

語り出したら止まらない“ココス愛”

さらに沖縄で取材を進めると、多くの外国人がココイチを親しみを込めて「CoCo’s(ココス)」と呼んでいることに気づいた。

5月、夕食時の午後7時ごろに中部のある店舗。店内では、若い外国人男性のグループが広いファミリー席で向かい合い、黙々とカレーを食べている。服装からすると米海兵隊関係者だろうか。テーブルに並んだカレーはどれもボリューム、トッピングが多い。壱番屋広報の言うとおり、チキンカツが2枚3枚と乗っている。屈強な米軍関係者には普通のボリュームなのだろうか。

米軍嘉手納基地に3年半勤務しているという男性(28)に話を聞いた。

〝Are you familiar with COCO’s?〟(ココイチに慣れ親しんでいますか?)

記者が質問すると、男性は初めてココイチでカレーを食べたときの「衝撃」を語った。

「最初の一口が口の中にとろけました。パリパリした皮に包まれたジューシーなチキン、そして熱々のカレーソースにとろけたチーズ。絶品でした」

米カリフォルニア州出身という男性。日本に来るまでカレーになじみはなかった。だが米軍に入隊後、日本に配属経験のある同僚たちがよく「ココス」の話をしていたことから、いつしかその存在が気になるように。

「日本配属が決まったとき、多くの同僚から日本に行ったらまずはココスに行くよう勧められました。周りでは多くの人が『ココス』『ココス』と話していました」

沖縄に配属され、早速〝うわさのココス〟に向かった男性。そのおいしさに衝撃を受け、以来、月1回は必ず通うようになったという。

別のアメリカ人客も魅力を語った。

嘉手納基地で働いているというアメリカ人の女性(65)は「日本に来る前はココスになじみはありませんでした。しかし友人に連れてこられてから、今では週に1回のペースで訪れています」と自慢気に語る。

ランニング帰りにテイクアウトで訪れた嘉手納基地で働く別の女性(25)。お気に入りのトッピングはチキンカツ、クリスピーチキン、スクランブルエッグでこの日は940円を使ったという。約1年沖縄に住んでいるという彼女。日本に来る前にカレーをよく食べていたかを聞くと、〝Not at all(全くない)〟と即答。友人に連れて来てもらって以来、月1のペースで訪れるようになった。

店舗限定のオリジナル商品「チキンカツカレーバーガー」=5月

ドル払い、オリジナルグッズ、バイトの理由

米軍基地に近い店舗では全席に英語メニューが置かれている。同社によると「アルバイトでも最低限の英語で注文対応できるよう、初期教育があり、中には英語を勉強したいという理由でバイトを始める方もいます」という。

沖縄県内の店舗は米ドルでの支払いも可能だ。沖縄以外だと神奈川県の米軍横須賀基地の近くの店舗でドル払いに対応している。

さらにオリジナルグッズも。「一般的な国内の店舗にはありませんが、沖縄の店舗ではオリジナルグッズを販売しています。米軍のみなさんは、任期が終わったらアメリカに帰られるので、お土産として好評いただいています。日本語が書かれたグッズがすごくお好きなようです」(広報担当者)

嘉手納基地に近いある店舗では、オリジナル商品として昨年から「チキンカツカレーバーガー」も販売。バンズは自家製というこだわりだ。

取材を終え、記者が普段より強気で注文した一皿。ポークカレーにライス300グラム、パリパリチキン2枚。そしてハーフチーズとハーフスクランブルエッグ。やっぱり少し多かった。

世界に広がる日本の味・カレー

ココイチは2023年4月末現在、世界で12の国と地域に計207店舗を展開している。同社の海外進出は1994年のハワイが最初だが、本格的な進出は2004年の中国が皮切りとなった。

アメリカ本土の進出は2011年。最初は認知が広がるまで苦労したが、アメリカ人からはチキンカツとカレーの味が受け入れられたことが大きかったという。アメリカでは西海岸を中心に展開。アメリカ本国でも米軍基地から近い店舗では基地から食べに来る米軍関係者が多いという。日本でココイチに慣れ親しんだ米軍関係者が、アメリカに戻ってもカレーを楽しんでいるようだ。

新しく日本配属となった同僚をココイチに連れてくる―。そんな光景がきょうも沖縄のどこかで繰り広げられているかもしれない。

【こちらもオススメ】
▶【動画あり】「沖縄方言すぎる白雪姫」YouTubeで60万回再生
▶異国感漂う「ハンビーナイトマーケット」復活! 
▶沖縄県民は海で泳がない? ウチナーンチュが「海でやること」第1位は?
▶“ヒップホップクイーン”Awichがつなぐ「沖縄の心」
▶沖縄県民は日本一の宝くじ好き? 断トツの購入額に「火の神」伝説まで