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【記者の傍聴記】「18歳だと思っていた」被告の年齢認識が争点に 米兵少女誘拐暴行事件初公判 沖縄<下>


【記者の傍聴記】「18歳だと思っていた」被告の年齢認識が争点に 米兵少女誘拐暴行事件初公判 沖縄<下> 米兵少女誘拐暴行事件の初公判で、那覇地裁周辺に集まった報道陣=12日午後2時31分、那覇市樋川(大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 安里 洋輔

「私は無罪」。那覇地裁が保釈を認めていた中で被告が発した一言に、驚きが広がった。未成年の少女に対するわいせつ誘拐、不同意性交の罪に問われている米空軍兵長の被告(25)の初公判が那覇地裁で7月12日に開かれた。今後の公判のポイントや見通しをリポートする。

>>【記者の傍聴記】上 「私は無罪」 被告の主張に驚き広がる

◆「まさか」の無罪主張 地検の保釈は「異例」

 「まさか無罪主張とは」ー。報道陣の多くから驚きの声が上がったのは、被告側が「起訴内容を認めるのではないか」との観測が広がっていたことが背景にある。

 地裁が、地検による起訴後に被告の保釈を認めていたことも、こうした見方を一層広める形となった。

 刑事事件の弁護経験が多いある弁護士は、「裁判所が刑事事件の被告の保釈を認めるのは、起訴された犯罪事実について争う意思を示していない場合が多い」と指摘する。一方で、起訴された犯罪事実を否認していたり、検察官が証拠請求している証拠に同意していなかったりする場合は、「罪証隠滅のおそれがある」などとして保釈が認められないケースが目立つという。

 こうした刑事裁判の傾向から、保釈が認められていた被告が「無罪」を主張し、起訴事実を否認したことは「異例」として驚きをもって受け止められた。

那覇地裁

 事件捜査に関わった捜査関係者も被告の無罪主張にため息を漏らした。捜査関係者は「捜査段階で被告は性的な行為に及んだことは認めていた」と振り返る一方で、「少女の年齢に関してはあいまいな供述を繰り返していた」とも指摘する。

 「18歳」と誤信したとする少女の年齢に対する認識が、被告の無罪主張のポイントのひとつになっている模様だ。

 検察側が示した冒頭陳述では、公判での争点となりそうな被告と被害少女との年齢を巡るやりとりについての記述もあった。

◆ジェスチャーで「年齢確認」 スマホのやりとりが鍵に

 冒頭陳述によると、少女は被告に対して、「両手の指を使ったジェスチャーを交えながら、日本語および英語で年齢を告げた」という。このやりとりが、被告が無罪主張の根拠とする少女への「年齢確認」である可能性がある。

 一方、検察側は、二人がスマートフォンの翻訳アプリを使ってやりとりをしていたことも示しており、このスマホに関する捜査報告書を証拠提出している。

 捜査関係者は、このスマホを介しての少女との「会話」によって、被告が「相手が若年者だという認識があった可能性が高い」という。

 被告が問われている不同意性交罪については、性的行為の相手が16歳以上であると認識していた場合は罪に問われない。ただし、相手が「16歳未満かもしれない」と疑いを持ちつつ行為に及んでいれば、刑事責任に問われるケースも出てくるのだという。

米兵少女誘拐暴行事件の初公判で那覇地裁周辺に集まった報道陣=12日午後2時36分、那覇市樋川(大城直也撮影)

 前出の弁護士は、「相手の少女が年齢を偽って申告したとしても、別のやりとりで相手の実年齢を把握した疑いがあるとみられれば、『未必の故意』に問われる可能性が出てくる。今回の事件でいえば、被告のスマホにそういった、少女の実年齢を把握するようなやりとりが残されていた場合、被告側の立証はかなり困難なものになるだろう」と指摘する。

 被告は公判中にも大きく表情を崩すことなく、落ち着いた様子を見せた。検察側が証拠提出した映像の確認中は、片肘をつき、左指でしきりにあごや唇に触れるなどしていたが、動揺を見せる場面はなかった。

 閉廷後、裁判長が被告を先に退出させ、報道陣を傍聴席に残すなど、混乱を避けるような対応も取られた。

 地裁前では、被告と似た風貌の外国人男性が顔を隠してワゴン車で走り去る様子が報道陣に目撃されていた。

紙のようなもので顔を隠しながら、那覇地裁を後にする被告とみられる人物=12日午後2時32分、那覇市樋川(小川昌宏撮影)

◆少女と母が証言台へ 被害者保護が大前提に

 米兵による犯罪続発に県民の怒りが渦巻く中で始まった「米兵少女誘拐暴行事件」の公判。

 約45分の初公判では、8月23日の次回期日で、被害少女本人と、少女の母親が証人として出廷することも決まった。

 裁判長は検察側の申し入れを受け、証言台に立つ少女と母親のプライバシー保護のため、被告と傍聴席との「遮蔽(しゃへい)措置」として証言台についたてを設置するとした。

 性犯罪に関わる事件の裁判では、被害者らの証人尋問が行われる場合の負担軽減のため、法廷と別室を回線でつなぎ、モニターを介して尋問を行う「ビデオリンク方式」が取られることもある。

 しかし、今回、少女と母親は自ら証言台に立ち、被告と法廷で対峙(たいじ)する道を選んだ。

 前出の弁護士は、「性暴力事件での被害者の証言は、並大抵の重圧ではない。検察側のみならず、報道する側もその重みを十分理解して、被害者保護に全力を尽くさなければならない」と語気を強める。

 勇気を振り絞って証言台に立つ少女が安心して証言できる態勢づくりが重要となる。