「アイム・ノット・ギルティ(私は無罪だ)」。
被告が発した一言に法廷内でざわめきが広がった。2023年12月に発生した米兵少女誘拐暴行事件で、わいせつ誘拐、不同意性交の罪に問われている米空軍兵長の被告(25)の初公判が7月12日に行われた。那覇地裁が保釈を認めていた中で飛び出した被告の無罪主張に驚きが広がった。多くの報道陣と傍聴券を求める市民らが詰め掛けた裁判で何が起きていたのか。公判の詳報と今後の裁判の見通しをリポートする。
◆抽選倍率は8・25倍 関心高く
12日午後1時10分。那覇市樋川の那覇地裁には多くの報道陣が詰め掛け、傍聴券を求める264人が列を作った。初公判が行われる204号法廷に用意された32席の抽選倍率は8・25倍。異例の高倍率が、事件への関心の高さをうかがわせた。
地裁の入り口前も、朝から騒然とした雰囲気に包まれていた。
被告は3月27日、那覇地検にわいせつ誘拐、不同意性交の罪で起訴された後、日本側に身柄を移された。しかし、那覇地裁への保釈申請が認められており、刑事施設に勾留されている「刑事被告人」のように刑務官による厳重な護送もなく、法廷に姿を現す可能性があった。
そのため、公判に臨む被告の姿を捉えようと、県内外の報道各社が地裁の門扉前に集まり、地裁に出入りする車両にカメラの放列を向けた。
この日は被告の初公判の直前に、同じ法廷で、4月、宜野湾市のコンビニエンスストアに侵入し、現金約13万円を奪い取ったとする強盗の罪に問われた米海兵隊上等兵の判決公判もあった。
その影響もあってか、米軍の関係者らしき外国人の出入りが多く、報道各社が確認に追われる場面も目立った。
「あれ、そうじゃないか?」「いや、どうも無関係のようだぞ」ー。
初公判の開廷予定時間である午後1時30分を迎えるまで、報道各社の記者やカメラマンの間でそんなやりとりが繰り返された。
◆「誘拐も性暴行もしてない」
12日午後1時38分。
32人の傍聴者が視線を注ぐ204号法廷に被告が弁護士に伴われて姿を現した。ダークブラウンの髪を短く刈り上げ、白いワイシャツ、黒色のズボン。長身に広い肩幅が、軍人らしい屈強そうな印象を与える。
「開廷します」
同1時39分。裁判長がこう告げ、注目の公判は、定刻より9分遅れで始まった。
「被告人は証言台へ」 裁判長に促され、中央の証言台に腰掛けた被告。法廷内にどよめきが起きたのは、検察官が読み上げた起訴状の罪状認否を問われた時だ。
「アイム・ノット・ギルティ(私は無罪だ)」
正面の3人の裁判官に向かって被告がはっきりと述べた瞬間、傍聴席に座った複数の記者が慌ただしく席を立った。被告はさらに「誘拐もしていなければ、性暴行もしていない」と続けた。検察側の起訴内容をほぼ全面的に否定した形だ。
続けて代理人弁護士が、被告の罪状認否を補足してこう陳述した。
「(被告は)女性に年齢確認を行い、18歳と認識し、自宅で映画などを見ないかと誘った」
「公園で声をかけ、自宅に誘ったのはわいせつ目的ではなく、誘拐の意図もありません。また年齢を確認してから解散するまで女性は16歳未満と認識していません」
「性的交渉に先立ち女性に意思確認を行っており、同意なく性的行為を行ったことはありません」
一方で、起訴状に記載された少女への性的行為については認めた。
つまり、被告側は、①少女が18歳であると認識し、②自宅への連れ去りは誘拐の意図ではなく、③性的行為には同意があった、という3点を主張した。
被告が問われている「不同意性交罪」は、16歳未満の少女との性的行為を同意の有無なく、原則処罰の対象になるというものだ。
ただ、その罪に問われるのは、加害者側に「相手が16歳未満である」という明確な認識があった場合に限られる。
被告側の主張はこの前提を踏まえているものとみられ、弁護士は公判で「わいせつ誘拐も不同意性交も構成要件を満たさないし、故意がありません。従って被告人は無罪です」と言い切った。