<南風>シンディ・ローパーのいやさっさ


社会
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 シンディ・ローパーは、「ウィー・アー・ザ・ワールド」でも異彩を放ち、「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハブファン(=ヘイ・ナオ)」の世界的ヒットでも有名なスーパースターだ。

 彼女が1996年に発表した「アバロンの姉妹たち」にクレジットされている「アーリー・クリスマス・モーニング」の歌が今回のテーマだ。

 彼女の歌声のバックコーラスが上々颱風(シャンシャンタイフーン)なる関西のワールド・ミュージック系のバンドで、高らかに「いやさっさ・はーいや」の囃子(はやし)をかますのだ。最初にこの曲を聴いた時はぶったまげた。次に、何と協奏していることかと驚いた。言わずもがなのことながら、いやさっさ・はーいやとはエイサーなどの島唄世界に入る際の呪文のような掛け声で、ちょうどアラビアン・ナイトで「開け・ごま」と唱(とな)える類いだ。そんな囃子なくして島唄は成り立たないだろう。

 いやさっさ・はーいやが欠けた島唄なぞ、チムグヮー(肝臓)を入れないアバサー(ハリセンボン)汁やフーチバー(よもぎ)を入れないヒージャー(山羊)汁と同じだ。味覚が季節のエキスを主張せず、または味覚そのものが素材の滋養に直結しないものとなり、要するに料理(=作品)として体をなさない。

 シンディの歌は、いやさっさ・はーいやの囃子が出た途端、あたかも隠れキリシタンの物語を内包するかのような東洋的多国籍クリスマスソングに一変する。

 まさに呪文一声、一見ミスマッチの取り合わせが絶妙な化学反応を示した好例だろう。似たような組み合わせが、浪曲師国本武春の「アパラチアン・三味線」だろう。テネシー系ブルーグラスの中に三味線が入るのだが、これも三線の新たな可能性を指し示した絶妙な作品なのだが、字数が尽きた。その国本も一昨年、寿命が尽きた。
(渡具知辰彦、県交通安全協会連合会専務理事)