収束したと思ったのに… 豚熱5例目確認、養豚農家や精肉業者に衝撃 陸自が防疫作業


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 【中・北部】新たに沖縄市で豚熱(CSF)が確認されたことを受け、本島中北部の養豚農家からは「ショックだ」「胸が痛い」などと悲痛な声が上がった。防疫ステーションとなっている沖縄市農民研修センターでは、陸上自衛隊や建設業の関係者らが豚の殺処分に向けた作業に追われる姿が見られた。

 当初の発生農場から半径10キロ圏内で、豚の搬出制限区域内となっている中部の養豚農家男性は、新たな豚熱確認に驚いた様子。1月下旬から例外措置として搬出制限区域の食肉用解体処理が一部再開し、豚の搬出作業に当たっていた。「あす午前中に出荷する準備をしていたが、新たな発生で中止にならないか心配だ」と気をもむ。

 現時点で搬出中止の連絡はないが、男性は見通せない先行きを懸念する。搬出は基本的にできないため、豚舎は新たに生まれる豚であふれ、衛生状況は悪化する一方という。「衛生的に良くなく、豚熱以外の病気もあり、2次被害にならないか心配だ」と指摘した。

 北部地区で数百頭を飼育する農家の男性は、5例目発生に「参ったね。潜伏期間があったり、媒介する動物もいたりして根絶には当面掛かるとみていたので驚きはないが、やはり難しいね」と言葉をなくした。「発生農家は全ての豚をつぶしており、それ以上の拡散防止策はない。同業者として胸が痛い。今まで通り侵入経路を完全に断って防ぐしかない」と気を引き締めた。

「経路明らかにして」精肉業者に驚きと困惑

 

 沖縄市の農場で県内5例目となる豚熱(CSF)の感染が2日、明らかになったことに対し、精肉業者らは「感染経路を明らかにしてほしい」と困惑した表情を浮かべた。1月15日の4例目の感染発覚から2週間以上たち、新たな感染に驚きが広がっている。

 那覇市牧志第一公設市場の髙良幸博精肉部長は新たな豚熱発生の一報に「もう収束したと思っていたが…」と驚いた。豚熱の発生以降、客からの問い合わせも多く、そのたびに「出回ることはない」と説明して納得してもらってきた。髙良さんは「正月と旧正月が近かったこともあったと思うが、旧正月に豚肉は思うように売れていなかった。原因を早く究明してほしい」と語った。

 消費者側の那覇市の公務員女性(46)は、新たな豚熱発生に「人には影響がないと聞いているので、前よりは気にしているものの『豚肉を買わない』ということはない。豚熱よりも新型肺炎ウイルスの方が心配だ」と冷静に受け止めた。 「衛生管理を徹底しているのに5例目が出たのは残念だ」と声を落とすのは県養豚振興協議会の稲嶺盛三会長。本島中部以外での感染拡大に危機感を示し「ワクチン接種をしない方がいいという意見もあったが、もうそんなことは言っていられない。北部から南部までワクチン接種を徹底し、拡大しないようにするべきだ」と早期のワクチン接種を訴えた。

 一方、ワクチン接種について、県獣医師会の工藤俊一会長は「中部エリアでの感染の『囲い込み』ができるのであれば、ワクチン接種しない方が、その後の影響を考えても県や農家のためにはなる」と慎重な姿勢だ。その上で「口蹄疫(こうていえき)やアフリカ豚熱(ASF)など他の伝染病の脅威もなお残っている。緊急事態に備えた検疫体制を整えておかなければいけない」と述べ、検疫体制の強化や、加熱処理などの徹底が必要だとの考えを示した。