「沖縄には自由がある」香港のアーティストが脱出先に選んだ事情と苦労【WEB限定】


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新型コロナウイルスの影響もあり人通りが少なくなった香港の繁華街コーズウェイベイ(銅羅湾)=8月25日(Zandeeさん提供)

 「香港では市民がいつ法律(国家安全維持法)に抵触するのか分からない」

 香港出身で今も香港に暮らす40代のZandee(ザンディーさん)は戦々恐々としている。

盲導犬の世話をしながらアーティストとしても活躍するZandeeさん(本人提供)

 香港では今年6月末、反政府活動の取り締まりなどを目的とした香港国家安全維持法(国案法)が施行された。

 ザンディーさんは7月、日本の在留資格を取得。沖縄への移住準備を進めており、今後は沖縄を拠点にアート関係の仕事や貿易事業などを手掛ける計画だ。

 「沖縄には自由がある」

 アート活動を行うザンディーさんにとって表現の自由が制限されるのは耐えがたいことだった。

 ■脅かされる創作環境

 

 香港ではザンディーさんのように自由ある新天地を求め、海外へ脱出する人が増えている。その中で、香港と地理的に近い沖縄への移住を目指す人も多い。

 ザンディーさんは、これまで北欧などで芸術の勉強を経験し、アート界に20年以上身を置いてきた。現在は植物など自然の素材を使った「オーガニックアート」を中心に創作している。

 「アートの制作には大胆かつ自由な表現が欠かせない。国安法の施行で創作に考慮を要することも多くなってきた」

Zandeeさんのアート作品「人工森に暮らす鳥」(本人提供)

 同法施行で直接的な影響はまだないが、周辺には変化が見られるという。ザンディーさんによると、周りの芸術家らはこれまでSNS(会員制交流サイト)で自らの作品を公開してきた。しかし、最近は限られた友人のみがアクセスできるよう制限をかける人が多くなってきたという。

 ザンディーさん自身、他のアーティストと共同作品を制作する機会も多い。自由な創作環境を確保するため、国安法制定の動きが出てきた昨年から海外移住を計画し始めた。

 地理的に近い沖縄やタイ、言葉の壁がない台湾などが移住先の選択肢に。治安面や永住許可を取得するまでのハードルなど、さまざまな条件を比較し、最終的に沖縄に決めた。

 「沖縄の環境には自分のアート作品に使える自然の素材がいっぱいある。大都会の香港と比べ、静かに暮らせるのもいい」

豊かな自然が身近にある沖縄

 

■日本独特の文化に戸惑い

 沖縄移住に向け、ザンディーさんは今夏から日本語の勉強も始めた。「海外生活の経験があるので、言葉が分からない沖縄に住むことはあまり心配していない。身ぶり手ぶりでコミュニケーションは取れるだろう」と楽観的だ。

 新型コロナウイルスの影響で現在、沖縄では全ての国際線が運休しているためザンディーさんはまだ香港にとどまっている。運行が再開され次第、すぐ移住を実現させたいという。

 外国人が多く暮らす北谷町に住む予定で、自らがデザインしたドレスや帽子、海外ブランドのビーチグッズなどを県内業者に卸すつもりだという。「アートを通して欧米人に沖縄の良さもPRしたい」と語る。

Flowers of life and decay©Zandee <和訳:花の生命と腐敗>

 一方で懸念材料もある。「日本には独特な文化があるのでそれに慣れることができるかどうか」。沖縄では当初、賃貸物件を探した。だが現地に知人がいなかったため、保証人の条件をクリアできずに断念。マンションの1室を事務所兼住宅として購入した。

 銀行での法人口座の開設も難航した。「煩雑な手続きが多く、教えてくれる人もいないので無駄に時間が取られた」とため息をつく。

 ■移住者に優しい島に
 

Flowers of life and decay©Zandee <和訳:花の生命と腐敗>

 香港人の沖縄への関心は高い。地理的な近さに加え、治安のよさや、子どもを通わせるインターナショナルスクールの費用が高くないことなどが人気の一因という。

 県内の移住コンサルティング会社にも香港からの問い合わせが急増している。こうした会社では行政書士の紹介や物件探しの手伝い、移住に必要な手続きの指南を行う。

 自力で移住の手はずを整えたザンディーさん。対応窓口が分かりづらく手間取った経験を振り返り、「外国人が安心して沖縄に住めるよう、外国人向けの移住相談窓口をぜひ行政に設けてほしい。県などのホームページでも移住情報を多言語で発信してもらいたい」と要望した。

 (社会部・呉俐君)
 

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