社会

死者の無念、後世に 加藤さん、日本の姿問いエッセー

沖縄を訪ね歩き「兄は沖縄で死んだ」を出版した加藤多一さん=琉球新報東京支社

 【東京】童話作家の加藤多一さん(81)=小樽市在住=が、沖縄で戦死した次兄・輝一(こういち)さんの軌跡を追い、戦後70年の沖縄と日本の現実を問うたエッセー「兄は沖縄で死んだ」(高文研)をこのほど出版した。「兄弟として口に出すのはつらいが、コウちゃん(輝一さん)は犬死にだった」と話す多一さん。死者の無念さを長く語り伝えることが“戦争の論理”に勝つと記した。

 輝一さんは北海道紋別郡(もんべつぐん)の薄荷(はっか)農家に生まれた。「優しくてニコニコしている兄だった」という。小さい子と相撲を取って上手に負ける人柄だった。
 1942年に出征し、満州から44年夏に沖縄へ移動。45年5月に現在の糸満市真栄平で目撃されたのが最後だった。24歳。戦死公報の日付は6月20日だ。
 13歳離れた多一さんは札幌市役所に勤務しながら76年、「白いエプロン白いヤギ」で日本童話会賞A賞を得て童話作家デビュー。北海道の農村を舞台とした児童小説を手掛ける。
 初めて沖縄を訪ねたのは22年前だ。以来、7回訪問し、南部戦跡で兄の足跡をたどり、離島にも足を延ばした。「慰霊碑」がいつの間にか「顕彰碑」と名付けられ、戦死者が美化される様を鋭く見抜く。
 名護市辺野古も訪ね「『新基地建設』に反対する沖縄県民の心を押しつぶそうとする政府」と憤る。「本土の人間が沖縄に押し付けているものの大きさを痛感する」と話す多一さん。「行くたびに見えなかったものが見え、自分の無知が暴かれる。この本はその軌跡だ」と力を込めた。(島洋子)