政治

<沖縄基地の虚実1>主役は海・空軍 海賊脅威、日本周辺になし

在沖米海兵隊の駐留の必要性について、シーレーン防衛との関係性を強調する中谷元・防衛相=2015年12月11日、防衛省

 「沖縄はわが国のシーレーン(海上交通路)に近い、安全保障上極めて重要な位置にある」

 中谷元・防衛相は昨年12月、報道各社とのインタビューで力説した。米軍普天間飛行場を県外・国外ではなく、名護市辺野古に移設する理由の一つとして、在沖米海兵隊によるシーレーン防衛任務を挙げた。
 シーレーン防衛は敵対国による海上封鎖などの事態が起きた時、ミサイルや魚雷を載せた潜水艦の派遣や海中に敷設された機雷除去への対処、周辺の制空権の確保などが主な作戦行動だ。こうした任務を担うのは海軍や空軍だ。
 これに対して海兵隊はヘリや水陸両用車に乗った歩兵部隊を海岸から内陸部に上陸させる「殴り込み」による強襲揚陸作戦や、陸上鎮圧の特殊作戦などが主任務となっている。海上封鎖を防いだり阻止するシーレーン防衛で、海兵隊がどれほどの役割を果たすのか。専門家からは大きな疑問が投げ掛けられている。
 辺野古代執行訴訟で裁判所に提出された準備書面でも在沖海兵隊の「抑止力」の内実と辺野古移設の合理性をめぐって、県と国双方が激しい応酬を繰り広げている。県側は準備書面で、シーレーン防衛では対潜作戦に対応する第7艦隊(米海軍)などが「重要な位置付けを有している」とした上で、「シーレーン防衛と沖縄県内への海兵隊輸送機の駐留の必然性について合理的根拠が示されていない」と強調し、海兵隊の沖縄駐留はシーレーン防衛とはほとんど無関係だとの主張を記している。
 対する国側はシーレーン防衛の意義付けについて「対潜作戦と対機雷作戦に限られるものではない」との見解を示した上で、2国間・多国間の共同訓練、シーレーン沿岸国などの海上保安能力向上の支援などを挙げて、任務は「多岐にわたる」と反論している。
 反論で示された「役割」について、国は海兵隊の運用や作戦との因果関係に絡めて抽象的な表現を列挙しながら、その中で具体的な事例を一つ挙げている。
 「米海兵隊は例えばアデン湾・ソマリア沖で海賊対処に当たっており、シーレーン確保のための任務を遂行している」
 中東とアフリカにまたがるアデン湾・ソマリア沖の海賊に対する商船などの護衛は現在、日本の自衛隊を含め各国の軍隊や民間軍事企業がすでに行っている。
 確かに米海兵隊は2010年、海賊に乗っ取られた貨物船を未明に奇襲して奪還する作戦を実行したことがある。しかし任務に当たったのは米西海岸のキャンプ・ペンデルトンに拠点を置く第15海兵遠征部隊であり、参加した兵士はわずか24人だ。遠く位置する沖縄の海兵隊が中東・アフリカ地域まで出向いて海賊鎮圧に加勢することに、中谷防衛相が主張する沖縄の「地理的優位性」を見いだすことは難しい。
 一方で「わが国のシーレーンに近い」沖縄の周辺海域で、一国のシーレーン維持を脅かすような活動を展開している海賊は存在していない。
 中東やアフリカを管轄する米中央軍は2014年9月、傘下に特殊作戦などを手掛ける海兵隊の「特別目的海兵空陸任務部隊(SPMAGTF)」を新たに設立した。部隊規模は2300人。危機、災害、人道支援、特殊任務などに従事する在沖の第31海兵遠征部隊(MEU、約2千人)とほぼ同規模だ。
 中東やアフリカに拠点を置く実戦部隊が存在している現在、仮にソマリア沖などで海賊対策が必要となった場合、現地のSPMAGTFで対処するのが作戦の流れとしては自然だ。
 一方、米海兵隊は沖縄に駐留する実戦部隊をグアム、ハワイ、オーストラリアなどに分散移転する計画を進めている。MEUやSPMAGTFを世界各地に編成し、危機や小規模紛争への対応、特殊作戦などに従事する機能を分散しているのだ。沖縄部隊の分散配置を進める現状を見ると、在沖の部隊の守備範囲はむしろ狭まっていると言える。
 それでは政府が普天間飛行場の辺野古移設が不可欠だとする理由の一つとして挙げるシーレーン防衛の危機が、沖縄の近くで現実として起こり得るだろうか。そしてその対処を沖縄を拠点にした米海兵隊が担う可能性はあるのだろうか。
 軍事評論家の田岡俊次氏は南シナ海での有事を挙げてこう分析する。
 「南シナ海を『沖縄近海』と言えるかは微妙だが、嘉手納基地所属のP3哨戒機が南シナ海で巡視していることを考えると、そう言えなくもない。南シナ海では例えば中国とフィリピン、ベトナムなどの海軍艦艇の撃ち合いが発生すれば、日本の商船も危険性を理由に通航を避ける可能性もあるだろう」
 こうした有事に在沖米海兵隊が出動するかについて、田岡氏は「対処するのは海軍だ。陸戦部隊の海兵隊は基本的には関係ない」ときっぱり否定した。
 現在、日本は東・南シナ海経由で原油の約8割を輸入している。資源輸入国の日本にとって南シナ海は重要な航路だ。南シナ海が有事で断たれた場合、日本の資源輸入は不可能となるのかについて、田岡氏は「紛争などで南シナ海を通れなくても、インドネシアバリ島の東、ロンボク海峡を抜け、フィリピン東方を回れば済む」と指摘する。
 田岡氏の調べによると、ペルシャ湾から東京湾までの原油の運賃は、南シナ海経由で巨大タンカーだと1リットル当たり1円余り。ロンボク海峡を通れば、南シナ海経由より10銭程度高くなる。しかし日本に到着し、精油したものを都内のガソリンスタンドに届ける陸送費は1リットル当たり約10円だ。
 「石油価格は為替相場や原油市場の影響でリットル何円単位で動いており、シーレーンの迂回(うかい)による『10銭』程度は全体の値動きに影響しない」と田岡氏は説明する。
 安倍晋三首相は昨年6月の衆院安保法制特別委員会などで、南シナ海に機雷が敷設された場合の集団的自衛権行使を問われ「南シナ海ではさまざまな迂回路があり、ホルムズ海峡とは大きく違う」と答弁し、存立危機事態に当たらないとの判断を示している。(島袋良太)
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 在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄。その合理性や基地と経済、歴史的経緯などをめぐり、沖縄の負担を正当化する議論があり、基本的認識への誤解も散見される。その虚実を検証する。