伝わらない 日本政府の怒り 前泊博盛・沖縄国際大教授


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 残酷な事件が起きた。県民の怒りは当然である。だが、残念なことに日本政府から「怒り」が伝わってこない。

 事件の一報を伝えるメディアに、官邸でコメントを求められた安倍晋三首相がコメントせず、ポーカーフェースで立ち去った映像にがくぜんとした。続く島尻安伊子沖縄担当相もコメントなしであった。

 一方で、米軍は「彼は米軍の兵士ではなく、米国政府の従業員でもない。しかし、日米地位協定の下で沖縄にいて、私どもが全責任を担っている。その責任を取らせていただく」(ニコルソン在沖米四軍調整官)と潔い。犯罪者を出し続ける米軍など褒められたものではない。しかし、犯罪者でも自国民を守ろうとする米国政府・米軍に比べ、犠牲者・死者が出てもコメントすらできない日本政府・官邸・閣僚。あまりの落差であった。

 この国の政府は、かつて国民の命よりも国体護持を優先し、敗戦を遅らせ、沖縄戦の惨禍と核の悲劇も招いた。敗戦から70年たった今は、国民の命よりも日米同盟と米軍駐留を優先し、国民を犠牲にする。残念な国である。

 容疑者は「軍属」ということで、またも日米地位協定改定が俎上(そじょう)に上がる。だが、本質はそこにはない。米軍駐留にある。治外法権、国内法の適用免除で米軍に特権を認め、日々、国民の命を爆音禍や墜落、演習・犯罪被害の危険にさらし続ける。主権を侵害され、国民を殺されても地位協定一つ改定できない「物言えぬ政府」にある。

 今回の事件で初めて、安慶田光男副知事から「全基地撤去」という言葉が出た。翁長雄志知事は辺野古「新基地」には反対だが、既存の米軍基地撤去には後ろ向きだ。その証拠に、大田昌秀知事時代に策定された「基地返還アクションプログラム」(1995年~2015年)のような基地全廃計画を持たず、作る気もない。「県民の命を、今後1人たりとも基地の犠牲にしない」という翁長県政の決意と本気度が問われている。

 復帰後43年間だけでも米軍犯罪件数は5896件に上る。うち凶悪事件が1割(574件)を占める。それだけ犠牲になっても「米軍基地は必要」という県民がいて、新基地建設を認める市町村長がいる。地位協定すら改定できない日米両政府などあてにせず、県民の命は県民自ら守る。地方主権を行使し、米兵犯罪や爆音抑止、米軍を封ずる条例制定を始めたい。
(日米安保論、基地経済論)