沖縄・高江ってどんなところ? 命満つる森を歩く


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東村高江の森を流れる新川川。沖縄本島に残る数少ない清流=2014年8月9日、東村高江

 沖縄県東村高江って知ってますか?米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設が進められていて、現在、ゲート前で機動隊と住民がにらみ合う状態が続いています。実は高江は沖縄本島でも有数の自然が残る場所。2014年8月、琉球新報に掲載されたルポで高江の自然を紹介します。(日付、工事の進捗状況は当時のものです)

〈東村高江ルポ〉進む着陸帯工事 希少種への影響懸念

 数々の希少種や新種が見つかり、自然度の高さを誇る東村高江の森。集落から程近い北部訓練場内にヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)2カ所が完成し、月内にも米軍に提供される。高江で昆虫の調査を続ける宮城秋乃さん(日本鱗翅学会自然保護委員)が開いた観察会に9日同行し、高江を流れる新川川とその付近を歩いた。着陸帯が完成したN4地区から数百メートルほどの場所に豊かな自然が広がる。

森が守る清流

 前日の雨のため水量は多めで水は澄み、川底の小石の輪郭が水面に揺れる。赤土が流れ込んでいないのは周囲の森が健全な印だ。浅瀬を歩き、水量の多い淵(ふち)では水に浮かびながら上流を目指す。

 川に沿った小道で、数枚の葉をつけた足元の草を指して宮城さんが説明を始めた。「リュウキュウウラボシシジミの食草。好きなのはこんな若い葉で…」。葉に手を添え、裏返した瞬間「あ、幼虫がいる」。よく見ると、米粒ほどもない半透明の幼虫がくっついていた。10月ごろまで葉を食べ、チョウになるのだという。

 細々と生えた草の裏で、岩陰で、朽木の中で、生き物たちは命を育む。豊かな森には命が充満している。

 

タヌキモの池

タヌキモの黄色い花が揺れる新川川近くの池。水の中にも草の上にも空中にも、虫たちがいっぱいだった

 川から上がると、真夏の太陽が照り付けていた。日光を反射して光る草の中に一段低くなったところがある。近付いてみると小さな池があった。一面に黄色い小花が揺れている。「珍しい、タヌキモの花です」。宮城さんの声が弾む。

 水生昆虫に詳しい青柳克さん(沖縄昆虫同好会会員)が水中に網を入れた。何種類ものヤゴやゲンゴロウ、マツモムシ、絶滅危惧1A指定のリュウキュウヒメミズスマシ、レッドデータブックに詳細な記載がないトビイロゲンゴロウの幼虫も見つかった。ひとしきり説明を聞いて顔を上げると、数えきれないトンボが乱舞していた。

新川川の川べりに生えるトキワヤブハギの葉裏にいたリュウキュウウラボシシジミの幼虫とさなぎの抜け殻(宮城秋乃さん提供)
沖縄島のやんばる3村と西表島に分布する固有亜種であるリュウキュウウラボシシジミ。生息地でも個体数が少なく絶滅危惧種=東村高江(宮城秋乃さん提供)
池からすくい上げられたリュウキュウヒメミズスマシ。すぐに網から飛んで行ってしまった

 説明を聞いた種はどれもこれも絶滅危惧種や準絶滅危惧種。多くの生物は細やかな自然条件の違いですみ分けている。広く見える森の中でも生息できる場所は限られている上、彼らが生きられる場所は今やほとんど残されていない。

 貴重な種を抱える森を切り開き、2カ所の着陸帯は造られた。今後、N1地区など4カ所で工事が進められようとしている。

 宮城さんは言う。「これ以上生き物を殺さないで。特にN1は地形上、周辺の川に赤土も流れ込む。清流と言える川はもう数本しか残っていないのに、沖縄らしさもなくなってしまう」

 「最高だったね」「また来たい」。声を弾ませる参加者の列を、森は静かに見送った。

(黒田華)