「役人の論理」で密約 当時の大蔵担当者証言


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森田 一氏

 1972年の沖縄返還をめぐり、米軍基地の原状回復費400万ドルを日本側が肩代わりしたとする密約で、70~71年当時に大蔵省主計局の法規課長補佐として密約に携わった森田一・元運輸相(79)が14日までに、密約が生まれた経緯などを詳細に語った。

70年秋に大蔵省は400万ドルを米側に支払わせるべきだと主張。米側の抵抗に遭った外務省が請求は困難と伝えたが、大蔵、外務両省とも原状回復費を米側に請求したと大臣に報告した後だったため、「役人のメンツ」(森田氏)で引っ込みがつかなくなり、最終的に日本が費用を肩代わりする密約を、外務省が大蔵側に提示したという。
 森田氏は400万ドルの請求を諦めていれば密約も生まれなかったと証言。その積算根拠も「確たるものはなかった」と述べた。戦後「銃剣とブルドーザー」で奪われた沖縄の土地の原状回復費についての対米請求権が大蔵、外務両省内で秘密裏に、「役所の論理」によって処理されたことになる。
 森田氏は70~71年に沖縄返還に伴う諸経費について、外務省と話し合う担当だった。
 森田氏の上司だった戸塚岩夫課長は「返還交渉で米国から取るべきものは取った」という形をつくるため、原状回復費は米側に要求すべきと主張。森田氏は戸塚課長に原状回復費の見積もりを指示され、目的を伏せて沖縄を訪問。確たる積算根拠もなく400万ドルの数字を挙げた。
 その後、外務省は「米側は議会を通すことは困難との回答だった」と説明したが、両省ともすでに原状回復費を米国に請求することを大臣に報告しており「今さら後に引けない」(森田氏)状況になった。
 その数日後、外務省が「米国が400万ドルを支払う形にして、実際には日本が肩代わりする」との密約案を提示。「これしか知恵がないから了承してほしい」と言われたという。
 森田氏は、大蔵省の柏木雄介財務官とアンソニー・ジューリック米財務長官特別補佐官が署名した69年の覚書で日本の拠出が決まった3億2千万ドルについても積算根拠のない「つかみ金」と断言。71年4月の法務など沖縄関係8省庁会議については、「各省庁に沖縄関係予算を出させるための外務省のアリバイづくり。対米請求権の話は出たが、聞きっぱなしで終わった」と述べた。
(島洋子)

<用語>沖縄肩代わり密約
 沖縄返還に絡み、米側から支払われるはずの米軍用地の原状回復費400万ドルを、日本側が肩代わりするとした秘密合意。沖縄返還協定が調印された1971年、毎日新聞記者の西山太吉氏が密約に絡む外務省の機密公電のコピーを入手、当時の社会党が72年、国会で政府を追及した。2009年末、密約文書の存否が争われている訴訟で、当時の吉野文六外務省アメリカ局長が文書に署名したと証言した。