雲の上でゆるやかな音楽を フジロック


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子ども連れも楽しめるフジロックのサイレントブリーズ
 1999年から新潟県湯沢町の苗場スキー場一帯で開かれ、すっかり夏の新潟の風物詩として定着したフジロックフェスティバル。「富士山でやるんだよね?」という誤った質問もあまり聞かれなくなってきた。常連“フジロッカー”の中には、結婚して子どもも生まれた人たちも多いだろう。「家族を置いて行くのは忍びない」と子どもたちとやって来たは良いが、過酷な自然もフジロックの名物。大雨に降られて大泣きする子どもたちの姿を見かけることも。そんなファミリーフジロッカーたちにお薦めな、のどかで優しい「天上のステージ」があることは意外と知られていない。

 屋根付きのステージ「レッドマーキー」の裏にある丘を、子どもたちがぐんぐんと駆け上がっていく。坂を上りきると、そこは苗場スキー場と田代高原を結ぶ「ドラゴンドラ」乗り場。美しい山河を見下ろしながらゴンドラに揺られ約25分、たどり着いたのが標高1346メートルにある会場「サイレントブリーズ」だ。
 「静かなそよ風」という名前を冠した会場には、青々とあざやかな芝生が広がる。朝方まで降り続いた大雨は嘘だったかのように、地面はすでに乾いていた。自然の山が持つ保水力の豊かさを思い知らされる。シャボン玉を吹いたりフリスビーを投げたりする親子の姿に混じって、トラやライオンの着ぐるみに子どもたちが群がっている。よく見ると、モグラと河童がなぜか人気のようだ。時折、思い付いたように紙芝居や縄跳び大会も開かれる。
 そのうち、ムーミンに出てくるスナフキンのような衣装を着た若い男の人がアコースティックギターを抱えて歌い始めた。アルプスの少女ハイジのような女の人もいる。すぐに人垣ができ、合唱の輪が生まれた。その後はパンダの姿をしたギターパンダも登場し、ロックなステージを披露。パンダの中からロックンローラー、ヤマカワノリヲが登場すると、子どもたちは大爆笑だ。真心ブラザーズの桜井秀俊ふんする「歌のお兄さん」や、そのレトロで怪しげな衣装がネット上に投稿されるもスケジュールに載っておらず「どこで見ることができるんだ?」と話題騒然の「怪しい3人組」もこのステージに登場。高い技術に支えられたゆるーい演奏で「屋根の上の与作」などを熱唱し、集まった観客は大いに盛り上がった。
 時間帯によっては悪天候に見舞われた今年のフジロックだったが、サイレントブリーズは比較的安定した天気に恵まれた。穏やかな風が吹き抜ける豊かな野山で繰り広げられる、徹底的にアコースティックにこだわった演奏。日中だけの開催だが、フジロックの隠れた名所といえるだろう。後ろめたい気持ちで家族を家に置いて参加している大人たちは、来年こそ子どもたちを連れて山を登ってみよう。都会では味わえない豊かな自然や、穏やかな時間と音楽を満喫できるはずだ。(加藤朗・共同通信社文化部記者)
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加藤朗のプロフィル
 かとう・あきら 1979年生まれ。音楽担当から、生活担当に異動しました。音楽担当としての最後の取材現場(?)となった今年のフジロック会場では、暑さや熱気と大雨による寒さを1日で体験。少し、疲れました。
(共同通信)

着ぐるみが子どもたちに大人気。フジロックフェスティバルの「サイレントブリーズ」会場=新潟県湯沢町
加藤 朗