20年の“旅”に幕 カノンの会


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“カノンの仲間たち”と共に、20年の”旅”への思いを演奏で共有する奥村愛(左端)=1日、那覇市のカトリック安里教会

 旅であり、追想である。奥村愛の奏でる音色が導く情景は、時間を超える。空間を超える。人の思いや営みを、聞く者の心に投影する。おのおのの記憶を揺さぶり、意識の底に眠る体験を呼び覚ます。

それは共感となり、共有されていく。楽譜に凍結されていた人々の思いは時代を超え、演奏家によって再び命を吹き込まれる。バイオリンは涙を流す。優しくほほ笑む。怒りに身を赤く染める。歓喜に震える。その響きは、聞く者の心を震わせる。
 カノンの会(新垣安子代表)の20周年記念、そして解散公演「感謝と希望のファイナルコンサート」。1日、那覇市のカトリック安里教会。バイオリン奏者・奥村愛を“カノンの仲間たち”が囲む。
 奥村は誰もがなじみ深いエルガー「愛のあいさつ」「朝のうた」で演奏の扉を開く。ハンガリーのバイオリン奏者イェネー・フバイによるチャルダッシュ「ヘイレ・カティ」は中盤以降にテンポを上げ、劇的な展開を聞かせる曲。庭野佐知子の陰影深いピアノ演奏との調和。先の読めない曲は旅の好奇心をくすぐり、未知の場所へ誘う。その魅力を演奏は存分に引き出す。
 フォスターの「故郷の人々」は欧州に生まれ、新潟に育った奥村の脳裏に焼き付いた雪景色を映し出すような郷愁の音色。聞く者がそれぞれのふるさとを思い浮かべることのできる、優しい旋律に包む。
 砂川聖子のピアノ、兼嶋麗子(メゾ・ソプラノ)や石垣真秀(テノール)の歌声も聖堂に花を添える。
 最後にパッヘルベル「カノン」。出演者がそろって演奏する。「輪唱のように広がりのあるメロディー。この曲のようにクラシックファンの輪が沖縄で広がってほしい」と新垣代表の思いを込め、カノンの会が結成されたのが1993年。20年の歩みを映し出すように、ゆったりと奏でる。
 奥村の音色と調和するバイオリンの宮良美香、阿波根由紀、ビオラの新垣伊津子、くによしさちこ、チェロの城間恵、上原玲未。新垣代表が涙を拭い、最前列の来場者も目を赤くする。
 沖縄のクラシックファンたちが、奉仕と慈善の精神で築いてきた20年。居合わせた演奏家、来場者、企画者たちはその輪の広がりを記憶に刻む。さらに質の高い演奏、ファンとの出会いを未来に描き、その活動に幕を下ろした。(宮城隆尋)