スコットランド独立住民投票 沖縄主権回復の事例に


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スコットランド独立の住民投票について話すスコットランド出身のポール・バミレンさん(左)とイングランド出身のポール・ロデックさん=19日、那覇市おもろまち

 英国からのスコットランドの独立を問う住民投票が実施された19日、沖縄と同様、自己決定権を主張してきたスコットランドの動向を多くの沖縄関係者も見守った。沖縄から現地を訪れている識者からは、「大きな示唆が与えられた」との声も聞かれた。

県内で母国の様子を見守ったスコットランド出身者は、望んでいた独立という結果が出なかったが「闘いは続く」と決意を新たにした様子。県内外で自治や独立について活動してきた関係者からは「直接民主主義の壮大な社会的実験だ」と評価する声や、「今後のスコットランドとイングランドの関係に注目したい」と指摘する声が上がった。

<本紙記者報告>識者「独立運動止まらず」
 【スコットランド=新垣毅】スコットランドの独立の是非を問う住民投票は現地時間の19日(日本時間19日)、開票の結果、接戦の末、反対派が多数を占め、独立は「ノー」との判断が下された。住民投票にまで至る過程は沖縄にとっても学ぶ要素が多い。現地を訪れている沖縄関係の識者や、英国在住の県系人は、沖縄の状況と重ね「大きな示唆を与える」などと話した。今後もスコットランドの独立への動きは「止まらない」との見方だ。
 「一度統合された地域が主権を回復する権利があると自己決定権を主張し、その権利を平和的に獲得してきた先進事例だ」。調査のため現地を訪れている島袋純琉球大学教授(政治学)は、琉球王国が1879年に日本に併合された「琉球処分」と対比した。「独自の文化、言語、歴史を持つ地域の人々が、自分らの国では民主的要求を充足できないという場合に、自分らの民主的な政府をつくる手続きのモデルになる」と指摘、「沖縄にとって大きな示唆を与える」と話した。
 一方で「接戦だったということは、独立の可能性をまだ秘めている。これは草の根の要求であり、パンドラの箱は開かれた。この要求は止められない。今後、確実に独立に向かうだろう」と予測した。
 琉球大学で長年教壇に立ち、現在はスコットランドのエディンバラ大学に客員教授として赴任している江上能義早稲田大学教授(政治学)は「政体を守ることができた連合王国派は安どしているが、これで英国における長年の政治課題が決着したとは到底、思えない。現地で観察・取材してきたが、独立運動はもう止めることはできず、近い将来、再挑戦が始まるだろう」と話した。
 「独立は難しいんだと念を押されたようで落胆した」と語るのは、英国イーストアングリア地方在住の我部貴子さん(37)=主婦=だ。「スコットランドと沖縄の置かれている状況がよく似ているので『もし沖縄が独立した時は…』と重ね合わせて見ていた。国民投票で二分されたスコットランドが一日も早く一つになってほしい」と願いを込めた。

◆県在住英国人も涙、安ど
 県内のスコットランド出身者も投票の行方を見守った。沖縄在住9年目の英語教師、ポール・バミレンさん(42)=那覇市=は、「今日はとても残念な日だ。自分たちの国を再びつくる千載一遇のチャンスを逃した」と声を落とした。独立「ノー」が決定した時は涙を流したという。
 フェイスブックで意思表明した同年代の友人は一様に独立に賛成だった。「恥と惨めさと怒りを感じる」「まだ闘いは続く」。バミレンさんは「約45%の人々が独立に賛成票を投じたこと自体が世界に驚きを与えたのではないか」と語る。
 「スコットランドの石油や天然ガス、ウイスキーの税収は中央政府が握っている。独立したらその収入がスコットランドのものになり、福祉が向上すると信じている。私たちにはスコットランド人としてのアイデンティティーがある」
 バミレンさんは、「英国の核はスコットランドに置かれており、米軍基地が集中する沖縄と似ている」と述べた。「仮に沖縄の人に独立の意志があるなら、自らの決定としてするべきだ」と語った。
 イングランド出身で沖縄在住9年目のウェブデザイナー、ポール・ロデックさん(42)=那覇市=は「両国は長い間家族のように協力しながらやってきた。欧州全体が(EUなどで)一つになりつつある中で分かれるべきではない」との見方を示しつつ「たとえ独立したとしてもそれが彼らの意志であり、尊重すべきだ」と話した。
 2人とも「両国での個人間の対立は一般的には見られない」と語る。一方でバミレンさんは「スコットランド国内で賛成と反対に割れた両者の緊張が高まっている」と懸念している。(長濱良起)