【島人の目】独首相の英断と課題


社会
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 ヨーロッパには中東やアフリカから難民・移民が押し寄せている。このうち戦乱のシリアを逃れてドイツを目指す難民・移民が最近特に注目された。

 ドイツのメルケル首相は、困難に直面するそれらの人々を年間50万人ほどの規模で無条件に受け入れていく、と表明して世界を感動させた。だがその決定は、EU(欧州連合)メンバー国のうちの、特に東欧諸国を困惑させた。ドイツが彼らにも難民・移民の分担受け入れを求めたからだ。
 東欧諸国は、かつて共産主義体制の下にあったこともあり経済的には弱者だ。難民の受け入れによって生じる重い経費負担を理由に要求を拒んだ。ドイツは仕方なく国境を閉鎖して難民・移民の流入をいったん止める決定を下した。これはドイツが、欧州に殺到する難民・移民の全てを一人で受け入れる気はない、と他のメンバー国に宣言したようなものだ。
 アフリカから海を渡る難民・移民の流入最前線に立たされてきたここイタリアを含む西ヨーロッパ諸国は、基本的にはドイツと足並みをそろえつつある。しかし難民・移民の受け入れを強硬に拒んでいるハンガリーなどの東欧諸国が軟化するかどうかは不透明だ。
 年間50万人もの難民・移民を受け入れる、としたメルケル独首相の寛容と勇気は、難民受け入れをめぐって対立、分断されつつあった欧州の良心を激しく揺さぶり覚醒させた。世界でもっとも豊かな地域の一つであるEUは、最低でもこれまでに欧州に到達した難民・移民をしっかりと保護するだろう。だが今後も彼らが寛容な道を進み続けるかどうかは予断を許さない。
(仲宗根雅則、TVディレクター)