女優の市原悦子さんを招いた沖縄パイロットクラブ設立30周年記念講演「私の選んだ女優の道」が26日夜、浦添市てだこホールで開かれた。
約千人が詰め掛け、戦後の食糧難から活発な少女時代、女優となった半生を振り返る市原さんの語り口に聞き入った。琉球の昔話やグリム童話などの朗読も行われた。
戦後の食糧難の時代、市原さんは千葉市で生まれ育った。苦労の中、中学校で入った演劇部の顧問教師との出会いが人生を変えたという。高校を出ると予定していた銀行勤めをやめ、俳優座養成所に進んだ。
芝居三昧(ざんまい)の中、市原さんが引かれたのは人間の暗さだった。「私には、つまはじきにされるような嫌な暗い人に近づく癖がある」。その癖は演じる役にも通じ、「下々の不幸な女の役が好きで、よく依頼も来る。ニュースで見る、どこに助けを求めたらいいか分からないような不幸な人たちが気になってしょうがない」と語った。
沖縄が好きでたびたび訪れているという市原さんは「あのとき(子ども時代)、同じくらいの年の子がどれだけ死んでいったか。成長して本を読み仕事をする中で、東京大空襲で赤い空が見えた同じころ、沖縄ではあんなこと(沖縄戦)があったと知るようになった。まだ続く飢えと戦争が、世界中からなくなってくれたらと強く願います」と涙ぐんだ。
講演の収益は県社会福祉協議会など9団体に寄付される。