<金口木舌> 何が公平か


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 体の機能を一つ、また一つと失いながらも懸命に生きる。傍には全身全霊で支える人たちがいる

 ▼ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う母を12年介護した川口有美子さんが著書『逝かない身体-ALS的日常を生きる』で体験をつづっている。筋肉が衰え、意思疎通が厳しくなる難病との闘い、介護は壮絶だ
 ▼人工呼吸器を装着し目で文字盤を追い、意思を伝える母。後にまぶたの開閉ができなくなり、母と娘は涙する。「ただ一緒にいることを尊び、蘭の花を育てるように大切に守れば良い」。肉親をいとおしむ言葉が胸に染みる
 ▼それに引き換え、麻生太郎副総理兼財務相は病を抱えた人を何だと心得ているのだろう。過日、都内の会合で「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない。無性に腹が立つ」と述べた
 ▼医療費抑制策として医療費が掛からない高齢者には「10万円をあげると言ったら、医療費が下がる」との持論も披露。1月には終末期の患者を、医療費が掛かる「チューブの人間」と表現した。健康な人、そうでない人を区別し「信賞必罰」で臨むのか
 ▼麻生発言には病を抱えた人々への偏見を助長する危うさがある。この人の上から目線は何とかならないものか。懸命に生きる人々の姿は人ごとではないはずなのに。