<金口木舌>反省忘れた原発再稼働


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 参院選で落選した地方の野党若手議員を、電力業界の幹部が訪ねる。浪人中の生活の糧として、大学客員教授の職を紹介する。こうすれば政権交代があっても、手なずけた政治家は業界の意のままに動いてくれる-

 ▼現役官僚が書いた告発小説「原発ホワイトアウト」の一場面だ。電力業界、官僚、政治家の利権の構造を生々しく描き、18万部超のベストセラーになっている
 ▼著者の若杉冽(れつ)氏は福島の事故後も原発推進へ突き進む政府に危機感を抱き、小説の形で内情を暴いた。反原発の知事をスキャンダルで逮捕したり、市民デモを公安警察が弱体化させたりと、真に迫る描写は国家権力の恐ろしさを見せつける
 ▼小説と見まがう現実の動きもある。電力業界が自民党議員に原発新増設を働き掛けていたことが先日発覚した。電力8社は10原発17基の再稼働を相次いで申請している。反省はどこへやら、再稼働の旗を掲げる安倍政権誕生後、業界は前のめりだ
 ▼政府は原発を「重要なベース電源」と位置付ける「エネルギー基本計画」を月内に閣議決定する。世論調査で6割が再稼働に反対する中、国民的議論よりも業界の権益を優先してはいないか
 ▼小説では大惨事が再び起きる。「フクシマの悲劇に懲りなかった日本人は(略)また忘れる」と。事故は過去ではない。古里を追われた原発避難者は依然13万6千人もいる。