<金口木舌>必ず誰かがそばにいる


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 「僕は6月のニューヨークが好きなんだ。君はどう?」。ジャズの名曲「ハウ・アバウト・ユー」は幾つもの「好きなこと」を分かち合う楽しさを歌う。「ありきたりだけど僕は大好きなんだ」

▼ありきたりのことでも共に過ごす人がいれば幸せに感じる。この曲の魅力を生かしたのが映画「フィッシャーキング」(1991年)。ロビン・ウィリアムズさん演じる主人公が好きになった女性に贈った歌だ
▼ウィリアムズさん死去のニュースで真っ先に浮かんだのがこの曲。「小さな喜び」を積み重ねる素晴らしさを歌っていた人物が、自ら人生の幕を閉じるとは思わなかった
▼報道によると、重度のうつ病だという。舞台裏では人知れぬ悩みがあったのか。そのつらさを他人が知ることはできないが、他に道はなかったのか
▼追悼メッセージで気になるのは米映画芸術科学アカデミーの「君は自由」だという言葉。米国の自殺予防団体は、自殺は人生の選択肢ではないとして「とても危ういものだ」と懸念を示した
▼「誰かにすがれ。自殺は一時的な問題を永久に片付けてしまうものだ」。2009年の映画「ディア・ダディ」でウィリアムズさん演じる高校教師のせりふだ。自死で自由にはなれない。悩みを封印せず、共に話し合える人を探してほしい。生きるのに必要な「小さな喜び」を分かち合う人は必ずそばにいるはずだ。