<社説>検察庁法改正案 独立性を揺るがす改悪だ


社会
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 新型コロナウイルス感染症対策のどさくさの中で、検察官の定年を延長する検察庁法改正案が国会で審議入りしている。政府は検察権の独立を揺るがす法改正は不適切だと素直に認め、断念すべきだ。

 改正案は、検事総長以外の検察官の定年を63歳としている現行の規定を65歳に引き上げ、63歳に達した幹部は役職を降ろす「役職定年制」の導入を盛り込んでいる。
 特に問題なのは、最高検の次長検事、高検の検事長は内閣の判断で、各地検トップの検事正は法相の判断で、役職の延長を可能にする特例を設けた点だ。
 それが必要不可欠かというとそうではない。法務省は当初、検察官については特例がなくても公務の運営に著しい支障が生じることは考え難い―との見解をまとめていた。
 実際、昨年秋に内閣法制局が了承した当初の改正案に特例措置の規定はない。もともと、特例を設けなければならない理由など存在しなかったのである。
 検察官は一般の国家公務員と違って、一人一人が独立の官庁として検察権を行使する。他者の圧力で職務遂行がゆがめられないように、内閣の裁量で罷免できないなど、厚い身分保障を受けている。
 改正法が施行されると、内閣の息のかかった検察官は役職にとどめ、そうでない者は役職から降ろすことが可能になる。それ自体、原則として意思に反して官を失うことがないとする検察庁法の理念とは合致しない。
 安倍晋三首相は「恣意(しい)的に、政治的に人事に介入することは絶対にない」と否定したが、決してうのみにはできない。63歳で退官すると定めた検察庁法に反し、黒川弘務東京高検検事長の勤務を延長したからだ。後に法解釈を変更したと強弁した。それこそ、恣意的介入の最たる例だ。これを合法化し、その気になれば露骨に介入できる仕組みにすることが問題なのである。
 検察官には、厳正公平、不偏不党を貫いて職務を遂行することが求められる。前提となるのは検察権の独立が担保されていることだ。内閣による人事介入が繰り返されて、検察首脳が政権子飼いの人間だけで占めるようになったときに、何が起こるのか。
 政権にダメージを与える捜査には本気で取り組まず、検察がやいばを向けるのは権力を握る者にとって好ましくない相手だけ、ということにもなりかねない。近年の例を見ても既にその兆候はある。強大な権限を持つ検察官が政治権力の手先と化した社会は想像するだけで恐ろしい。もはや民主国家とは言えまい。
 日弁連のほか、全国の多くの弁護士会が会長声明で黒川検事長の定年延長撤回を求め、特例措置を設けた法改正に反対している。検察官の中立性や独立性が脅かされることへの強い危機感の表れだ。
 このまま改悪を許したのでは将来に禍根を残す。