<社説>国交相、代執行を表明 政府は法治をゆがめた


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<社説>国交相、代執行を表明 政府は法治をゆがめた
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 名護市辺野古への新基地建設で、軟弱地盤改良の設計変更申請について、斉藤鉄夫国土交通相が沖縄県に代わって承認すると明言した。国が地方自治体の事務を代執行する初のケースとなる。

 代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部が命じた承認に県が応じなかったことによる。高裁判決を得た国の行為ではあるが、それこそ法治国家にもとるものと言わざるを得ない。
 国が承認するよう県に出した是正指示が違法だと訴えた訴訟は9月の最高裁判決で県敗訴が確定した。県がなお承認せず、最高裁判決に従わないことには法治主義を理由とした一定の批判もある。
 設計変更を巡る国の対応がまっとうであれば、その批判は成り立つだろう。国が県の不承認を取り消し、是正を指示したことの違法性を訴えた一連の裁判で県側の主張が十分に審理されたと言えるのであれば、県民にも一定の理解は広まるだろう。
 そうではないのだ。県の埋め立て承認の取り消しについて国は横車を押す対抗策をとった。政府機関が私人と同じ立場にあるとの論理で、行政不服審査請求によって県を組み敷いたのだ。行政法学者らが「国民のための権利救済制度の乱用」に当たるとして非難したのは当然だ。
 司法はこれら国の手法を承認してきた。9月の最高裁判決は国の機関が私人同様に権利救済されることを追認した。国が不承認の取り消し裁決をした場合、県は裁決に従う義務があるとも判示した。都道府県の裁量を著しく狭めるものとなった。法治をゆがめたのは政府と司法の方だ。
 今回の代執行訴訟の判決で高裁那覇支部は「県民の心情に寄り添った政策の実現が求められている」と付言した。今後の埋め立てでさらに設計変更が必要になる可能性にも言及した。地方自治法の理念にも触れ、繰り返して訴訟になることは「必ずしも相当とはいい難い」とも指摘した。
 付言は国の強行策をけん制するものだが、それに対する政府の対応は見えない。「県民に寄り添う」と政府から何度も聞かされてきたが、内容が伴っていない。
 米軍基地の整理縮小とは裏腹の移設と機能強化、自衛隊の南西シフトと米軍との一体化による防衛力強化が進む中で、県民の理解が全く得られていない基地建設を進展させる代執行に強く抗議する。
 他県に住む方々は、自らの地域にこのような事態が降りかかることを是認できるだろうか。国の無法は明らかだ。これを追認し、地方分権に逆行する司法判断の果ての代執行が全国的に問題視されているとは言えない。
 沖縄が初のケースで、今後沖縄以外にあり得ないという認識の下の無関心であろうか。そうであれば、沖縄の状況をまた如実に指し示している。不作為による差別にも由来する負担増を沖縄はこれからも拒否する。