<社説>中学教科書検定 「軍事力脱却」教育でこそ


<社説>中学教科書検定 「軍事力脱却」教育でこそ
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 平和憲法の理念に基づき、軍事力ではなく対話で平和と安定を目指すことが日本の進むべき道だ。教育現場でも、そのことを追求したい。

 2025年度から使用する中学校教科書の検定結果が公表された。21年度から実施されている現行の学習指導要領に沿った2度目の検定だ。
 検定では、沖縄の関わりで公民、歴史の記述が注目される。この中で「保守系」とされる育鵬社、自由社の公民教科書は東アジアの安全保障環境に対応した日本の防衛政策の変化や自衛隊の国際貢献について、現在の政府の政策に沿った記述が目立つ。
 両社は米軍基地に関しても肯定的に記述した。
 育鵬社は「日米安全保障条約に基づく日米安保体制は日本の防衛の柱であり、アジア太平洋地域の平和と安定に不可欠です」と在沖米軍基地の存在を正当化した。自由社も「沖縄県は中国、台湾に近く、戦略的に大変重要な位置にある」と記述している。
 沖縄への米軍駐留を当然視するような記述は沖縄県民の意識とずれがある。基地負担の実情にも触れる必要がある。「沖縄県民が日本のために大きな負担を抱えていることを、国民が深く認識することが大切です」(教育出版)などの記述を通じて、基地の重圧に苦しむ沖縄の実情を学ぶことが望ましい。
 自由社が「日米合同委員会」の項目を設けたことは注目される。委員会の密室性や米側の圧倒的な発言権を指摘している。教育現場での扱いを注視したい。
 平和や安全保障について学習指導要領は「日本国憲法の平和主義を基に、我が国の安全と防衛、国際貢献を含む国際社会における我が国の役割について多面的・多角的に考察、構想し、表現すること」とある。日本の防衛や国際社会の安定・平和維持に果たす自衛隊の役割や日米安保条約に触れ、平和実現の方策を指導するよう求めたものだ。
 しかし、自衛隊や米軍に依存する安全保障政策は特定の地域に犠牲を強いる。それが沖縄の現実だ。教育の場においてこそ、軍事力による安定・平和維持という固定観念から脱却すべきである。
 歴史教科書では検定に合格した8冊のうち7冊が、沖縄戦における「集団自決」(強制集団死)を取り上げ、その大半が日本軍の強制・関与にも触れた。一方で、「この戦いで沖縄県民にも多数の犠牲者がでました。日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力しました」(自由社)という記述もあった。「根こそぎ動員」の形で強制的に県民を戦場に駆り立てた沖縄戦の実情に照らせば不十分な内容だ。
 過去の戦争を反省し、恒久平和を願う姿勢を育むためには、沖縄戦や原爆が投下された広島、長崎の惨禍、アジア太平洋地域における加害行為について学ばなければならない。教科書記述で戦争の実相をゆがめてはならない。