<社説>那覇市LRT計画素案 公共交通の価値考えたい


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<社説>那覇市LRT計画素案 公共交通の価値考えたい
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 「車社会」と言われてきた沖縄で公共交通機関はどのような役割を果たすべきか。新たな交通体系構想が示されたのを機に、その価値を改めて考えたい。

 那覇市が次世代型路面電車(LRT)の整備計画素案を公表した。中心市街地、真和志、新都心の3地域を東西、南北の2路線で結ぶ。総事業費は2路線合わせて480億円。東西ルートを先行的に整備し、2040年度の開業を目指す。
 LRTは床が低く、乗り降りがしやすい車両が特徴で、定時・定速・快適性で利点がある。国内では昨年、栃木県宇都宮市と同県芳賀町を結ぶ「宇都宮ライトレール」が開業した。県内では翁長雄志氏が04年の那覇市長選でLRT導入を公約に掲げており、市は15年度から導入可能性調査を進めていた。
 巨額を要する大事業である。バス・タクシー、モノレールに加え、なぜ新たな交通体系が那覇市に必要なのか、市民へ丁寧に説明し、理解を得なければならない。
 LRT導入の必要性について那覇市は計画素案の中で「那覇市では、まちなかに入る自動車量を減らしながら公共交通をさらに便利にすることで“人を中心としたまち”“誰もが移動しやすいまち”をつくる必要があると考えています」と説明している。
 背景には、大型商業施設が郊外や周辺市町村に増える一方、市中心部では人口減少や少子高齢化が進み、にぎわいの維持が難しくなった現状がある。慢性的な交通渋滞で公共交通機関の利用度も低下している。LRT導入はこれらの課題に対応し、市街地の活力維持、沿線まちづくりの促進、公共交通利用の促進を目指すものだ。
 那覇市が抱えている課題は全国の地方都市にも共通している。市中心部に流入する車両数を抑えながら、新たな交通機関で移動手段を確保し、街の活性化を促すという構想の方向性は理解できる。
 特に市計画素案が掲げるように、LRTとバス・タクシー、モノレールと有機的な連携を図ることができれば、公共交通機関の価値は向上するはずだ。高齢者ら「交通弱者」にとって利用しやすい公共交通機関の充実が待たれている。LRT導入議論を通じて価値ある公共交通の姿を明確にしてほしい。
 事業推進にあたって、県との調整が不可欠となる。市が示した2ルート案の多くを県道が占めている。県と協力体制を築かなければならない。那覇市が示した需要予測も精査が求められよう。
 LRT導入を提唱したエッセイストのゆたかはじめ氏は2018年の本紙投稿で「路面電車は、車社会と共存し、高齢化社会にふさわしい公共交通である」と記している。高齢者や障がい者が使いよい、市活性化に寄与する公共交通とは何か、市計画素案を基に議論を深めたい。