<社説>少子化対策法案審議 最大の危機 本気の議論を


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<社説>少子化対策法案審議 最大の危機 本気の議論を
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 「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」―。政府が昨年12月22日に閣議決定した「こども未来戦略」の「基本的考え方」の冒頭である。少子化対策関連法案の実質審議が衆議院で始まっている。「最大の危機」を回避する本気度が、政治にも国民にも問われている。

 「戦略」は、少子化を反転させるには「2030年までがラストチャンス」だとし、今後3年間の集中的な取り組みとして「加速化プラン」を示した。それが今回の法案になっている。
 必要な予算規模を3・6兆円とし、財源は医療・介護制度等の改革による社会保障費削減1・1兆円、既存の予算活用1・5兆円、そして公的医療保険料に上乗せする「支援金」1兆円とした。
 この「支援金」が目下の論点となっている。政府は「負担は生じない」と言うが、野党は「事実上の増税」と批判し、与党内からも分かりにくいという声が上がっている。
 政府の説明は、賃上げと社会保障費の削減により上乗せ分は「相殺」されるので、実質的には負担増にならないという理屈だ。しかし、上乗せは上乗せであり、それが負担であることは間違いない。そもそも医療保険と少子化対策は目的が異なっており、無理筋ではないか。
 より重要な論点を忘れてはならない。財源の一つは社会保障費削減だ。先月成立した2024年度予算で社会保障費は過去最大の37兆7千億円に達した。少子高齢化に伴い予算が増え続けているのに、どうやって1・1兆円も減らせるのだろうか。
 経済界は、少子化の経済への影響に危機感を持っている。ならば、財源に法人税を充てることが合理的だ。深刻な財政事情の中、防衛費を5年間で43兆円増やすより、少子化対策を優先すべきだ。
 今回の対策が、効果があるのかというのも大問題だ。法案に盛り込まれたのは、児童手当の(1)高校生まで延長(2)所得制限撤廃(3)第3子以降倍増―と、育休給付の拡大である。当該世帯にとっては家計支援になるが、既存制度を拡充する程度にとどまっている。
 識者から「少子化の最大の要因は未婚率の上昇なのに、何も手が付いていない」「多子世帯より低所得層の底上げを優先するべきだ」「予算が限られるなら、高等教育機関の無償化などインパクトのある政策を打ち出すべきだ」などの指摘が上がっている。
 「こども未来戦略」は「基本的方向」でこう指摘する。「若い世代の誰もが、結婚や、こどもを生み、育てたいとの希望がかなえられるよう、将来に明るい希望をもてる社会を作らない限り、少子化トレンドの反転はかなわない」
 必要なのは、子どもの医療費と教育費を一律・永続的に無償化するなど明快な政策ではないだろうか。国民的議論を広げるためにも、国会での真剣な議論が必要だ。