<社説>アートワーカー調査 芸術担い手の待遇改善を


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<社説>アートワーカー調査 芸術担い手の待遇改善を
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 沖縄の文化・芸術活動の若い担い手たちが厳しい境遇に置かれている。現状を直視し、待遇改善を急がなければならない。

 那覇文化芸術劇場なはーとが、県内の文化・芸術活動に携わる人材(アートワーカー)の実態調査を実施した。低収入や不安定な雇用形態、ハラスメントに苦しんでいる実態が分かった。
 オンラインによる調査に答えたのは音楽、美術、演劇、写真、伝統芸能、映画などの分野の117人で、沖縄出身あるいは沖縄を拠点に活動する20代から30代を中心とした若い世代である。「お金と生活」「契約」「ハラスメント」について実情を聞いた。
 芸術活動だけで収入を得ている人は29%で、多くのアートワーカーが低収入に悩んでいる。一方、芸能活動で仕事上トラブルになったことがある人は66%に上る。主なトラブルは不当に低い報酬額、報酬支払いの遅延などである。
 「ハラスメントに当たる行為をされた、見たことがある」と答えた人は80%に達した。脅迫や名誉毀損(きそん)など精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、容姿や年齢などに関わるからかいなど、さまざまなハラスメントが確認された。「レイプをされた」という回答もあった。
 今回の調査が明らかにしたのは、沖縄の文化・芸術活動を支える若い担い手たちが大切な人材として扱われていない実情だ。豊かな自然と共に独自の歴史と風土に育まれた文化・芸術は沖縄の最大の魅力である。それを担う若者が苦境に陥っている。沖縄の文化・芸術活動の振興・発展を考える上で看過できない重大な課題と捉えるべきだ。
 調査を担当した那覇文化芸術劇場なはーとの林立騎氏は「想像以上にひどい状況だった。文化・芸術だけで食べていくにはまだまだ厳しい現実がある」と語っている。低収入や不安定な契約が公然とまかり通っている。ハラスメントの横行は到底許されない。改善を急ぐべきだ。
 第一に求められるのは意識改革であろう。文化・芸術の現場を支えるアートワーカーを貴重な人材と位置付け、働きやすい環境を整備する必要がある。雇用・契約関係をおろそかにしてはならない。口約束は避けるべきだ。旧来の徒弟制度的な雇用関係が若い担い手に過重な負担を強いるならば見直す必要がある。
 県や市町村の文化行政に携わる部署もアートワーカーの就労環境に関心を持ってほしい。民間の芸能・文化団体との連携で何らかの事業を進める場合、しっかりと人件費を捻出できるような事業費の確保に努めるべきである。文化事業に関わる企業も同様だ。
 本県には文化・芸術活動の担い手を育成する県立芸術大学がある。ほかにも、さまざまな場で研さんを重ねる若者がいる。彼らが生活を維持し、夢も描けるような環境を整えなければならない。