<社説>イラン、イスラエル報復 日本は連鎖阻止に全力を


社会
<社説>イラン、イスラエル報復 日本は連鎖阻止に全力を
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イランがイスラエルに弾道ミサイルや無人機で大規模攻撃を行った。シリアのイラン大使館がイスラエルに攻撃された報復だとした。イランがイスラエルに直接攻撃をしたのは初めてだ。

 パレスチナ自治区ガザの戦火が拡大しかねず、中東情勢は緊迫の度を増している。報復の連鎖を何としても食い止めなければならない。日本政府は、中立の立場でエスカレーション阻止に全力を挙げるべきだ。
 日本時間の15日に行われた国連安全保障理事会の緊急会合で、グテレス国連事務総長が関係国に最大限の自制を求めた。しかし、イランは「自衛権の行使」だと攻撃を正当化し、イスラエルは「報復する権利」があると主張、非難の応酬が続いた。
 日本も含む先進7カ国(G7)はオンライン形式で首脳会議を開き、イスラエルへの「全面的な連帯と支持」を表明した。米国は2兆円を超えるイスラエル支援緊急予算を承認しようとしている。一方への肩入れは緊張をより高めることになりかねない。日本はもっと慎重になるべきだ。
 イランとイスラエルの敵対の根源にはパレスチナ問題がある。イスラム教の聖地でもあるエルサレムを占領しているイスラエルを、イランは国家として認めていない。そしてイスラエルに武力攻撃を仕掛けているパレスチナ自治区のハマスやイスラム聖戦、シリアのヒズボラ、イエメンのフーシ派を支援しているとされる。中東に駐留する米軍との間でも、攻撃と報復が繰り返されてきた。
 イランは、事実上の核保有国イスラエルに対抗するため核開発を進めていた。2015年、核開発をやめる見返りに経済制裁を解除するイラン核合意が米オバマ大統領の主導で結ばれた。イスラエルの反対を振り切り、米英仏独中ロ6カ国が合意に参加した。
 しかし、親イスラエルの米トランプ大統領が18年、一方的に合意から離脱し、合意は機能不全に陥った。イランの核科学者の暗殺事件や核施設の破壊などがあり、イスラエルの関与が疑われている。
 長年続くイランとイスラエルの攻撃と報復の応酬には、歴史や宗教、国際関係、国内事情など、複雑な背景があり、どちらが悪いとは言いがたい。しかし、人の血が流れる事態を続けてはならない。武力行使を停止した上で、時間をかけて根源にあるパレスチナ問題を解決することを考えるしかないのではないか。
 1993年にオスロ合意という解決策があった。2002年にはアラブ連盟による包括和平案があった。核合意も復活させるべきだ。これらを土台に、当事者だけでなく、国連総会など広い国際的枠組みの中で、知恵を出し合うことはできないだろうか。
 日本は歴史的に中立的な立ち位置にいる。米国と距離を置いて、国際社会の先頭に立つべきではないか。