<社説>新基地建設に奄美土砂 県民の批判避けられない


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<社説>新基地建設に奄美土砂 県民の批判避けられない
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 新基地建設という日米合意を履行するため、何が何でも大浦湾を埋め立てようという政府の無謀の表れである。環境破壊や外来種侵入の可能性を考慮しない政府の強行姿勢は許されない。

 米軍普天間飛行場代替の辺野古新基地建設で、軟弱地盤が存在する大浦湾側の埋め立てに向け、防衛省は奄美大島で採掘した土砂の使用を検討している。来年初めにも搬入を始めるとみられる。
 沖縄で得られる土砂だけでは新基地建設は完遂しない。昨年10月末までに辺野古側の土砂搬入量は318万立方メートルで、新基地建設の埋め立てに必要となる土砂量全体の15.8%である。今後、大浦湾側の埋め立てで膨大な土砂が必要となる。それを他県から調達するのである。
 奄美の土砂使用に関して、沖縄戦の激戦地だった本島南部の土砂使用に対する県民の批判を避ける狙いがあるとみられている。防衛省が本気でそのように考えているならば、とんでもない見当違いだと言わざるを得ない。
 沖縄戦犠牲者の遺骨が残されている可能性がある本島南部の土砂を新基地建設に用いることは、悲惨な沖縄戦体験と、平和を希求する県民感情に照らしても到底受け入れることはできない。同時に、多くの県民はどの地域の土であれ、辺野古の海に投ずることを拒否しているのである。
 新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う2019年2月の県民投票で7割が埋め立てに反対し、新基地建設拒否の意思を示した。それは土砂の調達場所を超えたものであり、奄美の土砂を使用することで県民感情が和らぐことなどあり得ない。防衛省は新基地拒否の県民意思を軽視してはならない。
 大浦湾側の工事が進めば環境悪化は避けられないだろう。それに加え、土砂に混じって外来種の侵入の可能性が指摘されている。例えば特定外来生物のハイイロゴケグモが奄美大島の採石場で確認されている。外来種の侵入は沖縄の生物多様性に深刻な影響を及ぼしかねない。
 県が19年度に実施した外来生物に関する調査では、埋め立て用の土砂などに混ざって県外から持ち込まれる可能性のある外来種は動物57種、植物147種、計204種に上ることが分かっている。
 土砂などによる特定外来生物の侵入を防ぐため県が15年に制定した「土砂条例」では、土砂への外来生物混入が見つかれば、知事は土砂搬入や使用の中止を勧告できる。
 政府は土砂を洗浄すれば県外からの搬入は可能と判断しているという。これで外来生物の侵入を防止できるか疑問だ。そもそも、大浦湾の埋め立てに使用する膨大な土砂を検査することなど不可能ではないか。
 県内の市民団体から条例に基づく規制を強化するよう求める声がある。県は対応を急ぐべきである。