<社説>憲法施行77年 総裁任期で改憲せかすな


<社説>憲法施行77年 総裁任期で改憲せかすな
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 日本国憲法の施行から77年を迎えた。国会で憲法改正に前向きな勢力は改憲発議に向けて議論を急いでいる。しかし、国民の大半は「急ぐ必要はない」との考えだ。国内で改憲の機運や議論が盛り上がっているとは言えない。慎重な議論を重ねるべきだ。

 共同通信が実施した郵送方式の世論調査で、改憲の議論を「急ぐ必要はない」が65%だったのに対し「急ぐ必要がある」は33%にとどまった。
 岸田文雄首相は自民党総裁任期の9月までを改憲目標としている。世論調査では改憲が「必要」「どちらかといえば必要」が合計で75%となったが、その中でも改憲を「急ぐ必要がある」は41%だった。
 そもそも改憲論議は総裁任期に合わせてせかすような性質のものではない。国民がついていかないのは当然ではないか。改憲を目指す自民、日本維新の会の支持層でも「急ぐ必要がある」は46%だった。改憲に理解を示す層でも期限を切った論議を是とはしていないのだ。
 9条改正については必要性が「ある」が51%、「ない」が46%と拮抗(きっこう)した。
 憲法9条は戦力不保持を規定するが、政府は自衛権は認められていると説明し、自衛隊を設置した。それにとどまらず、解釈改憲を重ねることで自衛隊の配備、増強を進めてきたのである。
 集団的自衛権の行使を可能とする安全保障法制については憲法学者や専門家から憲法違反の指摘を受けながら可決、成立させてきた。
 長距離ミサイルなど敵基地を攻撃する能力の保有は戦後日本の安保政策の大転換にもかかわらず、これを閣議決定で推し進めてきたのだ。
 これらの軍事増強の動きに対し、憲法は一定の歯止めとなってきた。国民の理解が得られない速さで改正を推し進め、憲法を形骸化させるような拙速な論議は戒められなければならない。
 沖縄の施政権返還から今月で52年となる。返還と同時に沖縄にも実効性をもって憲法が適用されることになったが、その理念が現時点でも十分に生かされているとは言い難い。沖縄への基地の押しつけはその最たるものだ。日米安保体制の重圧を沖縄が背負い続けている実態は法の下の平等に反する。
 辺野古新基地を巡り、沖縄県行政の権限を無視するような国の姿勢は憲法の地方自治の規定にそぐわない。改憲を急ぐよりもその理念を軽んずるような国の姿勢こそ見直されるべきである。
 社会の在り方やニーズの多様化で、改憲の論点も9条改正だけではなく、同性婚や衆院解散権などさまざまだ。
 新たな権利の確立が必要だとして改憲に理解を示す人たちも多いだろう。一方で教育の充実や参院選挙区の合区など項目によっては法制度の改定によって対応できるものもあろう。論点をより整理することが先決だ。