<社説>子どもの権利条約30年 子どものための県計画を


<社説>子どもの権利条約30年 子どものための県計画を
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 日本が子どもの権利条約を批准して30年になる。批准は1994年4月22日、発効は5月22日である。この30年、少子化が進む一方で虐待や貧困問題は深刻化し、子どもを取り巻く状況は悪化している。昨年4月にこども基本法が施行され、12月に「こども大綱」が決定された。これらが状況の改善につながるのかは、現時点では見通せない。

 沖縄県は本年度中に「こども計画」を策定する。県の計画が子どもの権利の浸透につながるよう期待したい。

 子どもの権利条約は1989年に国連総会で採択された。日本の批准は158番目と遅かった。その後、日本の取り組みが十分ではないと国連の委員会から数回にわたり指摘を受け、2019年には包括的な法律を制定すべきであると勧告を受けた。政府は「(児童福祉法など現行法で)必要な法整備はできている」と反論してきた。

 21年に自民党有志議員が動いてようやく議論が始まり、22年にこども基本法が成立した。担当官庁の名称は「こども庁」の予定だったが、自民党保守派の主張で「こども家庭庁」となった。子どもの相談を受ける第三者機関「子どもコミッショナー」の設置は、自民党内で「子どもの権利が強調されすぎる」などの意見が出て見送られた。

 子どもの権利条約の4原則は(1)差別禁止(2)子どもの最善の利益(3)生存と発達の権利(4)子どもの意見尊重―である。こども基本法にも4原則が盛り込まれた。子どもの利益と意見の尊重が法律にうたわれたことは重要だ。

 一方、条約にない二つが基本理念に加えられている。一つは「子どもの養育については家庭を基本として行われ」と「家庭」が登場する。「こども家庭庁」という名称同様、「家庭」を強調しているように見える。もう一つは少子化対策を加味した「家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること」である。

 こども基本法に基づくこども大綱は「こどもまんなか社会」を掲げた。「こどもまんなか社会」とは「全てのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸福な生活を送ることができる社会」と説明している。「こども・若者」として、子ども施策と20~30代の若者施策を並記している。若者施策の内容は、「こども大綱」と同じ日に閣議決定された少子化対策の「こども未来戦略」と重なっている。

 個人として尊重され、意見や表現を尊重されることが「こどもまんなか」であるべきだが、少子化対策をセットにすることには違和感がある。

 こども基本法では、都道府県、市町村が「こども計画」の策定に努めることになっており、こども大綱を勘案することになっている。沖縄県の計画は、独自の「子どもコミッショナー」を設置するなど、本来の子どもの権利尊重のためのものにしてほしい。