<社説>パリ五輪閉幕 意義問われた「平和の祭典」


<社説>パリ五輪閉幕 意義問われた「平和の祭典」
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 パリ五輪が閉幕した。各国代表の選手による17日間にわたる熱戦が繰り広げられる最中でも、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区攻撃など戦火が続いた。国連総会が決議した「五輪休戦」は実現せず、平和の祭典としての意義が問われることになった。

 開幕直前には、開催地のパリでパレスチナへの連帯を示すデモ隊と親イスラエル団体が衝突した。イスラエル選手に対する脅迫もあった。

 厳重な警備が敷かれた中、破壊行為が発生した。パリ五輪開幕直前に高速列車TGVの電気設備が放火されたのだ。死者こそ出なかったものの、暴力の連鎖によって不安が増幅する世界情勢がパリ五輪に暗い影を落とした。

 パリでは1900年、24年に続く3度目の夏季五輪だった。近代五輪の父、クーベルタン男爵の故郷に100年ぶりに戻った五輪のスローガンは「広く開かれた大会に」である。クーベルタン男爵は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」の理念を掲げた。五輪の目的は、スポーツを通じて平和を実現することなのだ。

 こうした理念に反しているとして、ウクライナ侵攻に伴ってロシアとベラルーシの選手は国歌や国旗の使用を禁じられ、個人の中立選手(AIN)として出場した。一方、ガザ地区に侵攻しているイスラエルは国としての参加が認められた。「平和な社会の推進」と「開かれた大会」という二つの理念のはざまに揺れ動いた大会だった。

 SNSを通じた選手への中傷も問題となった。五輪史上、選手がSNS上でこれほど誹謗(ひぼう)中傷にさらされたのは初めてだと言っていい。トップアスリートも生身の人間である。日本オリンピック委員会は、こうした中傷に対して法的措置も検討するとした声明を出した。精神的な苦痛をもたらす行為への対策を早期に進めるべきだ。

 中傷が飛び交う中、選手自身がSNSを通じて友情や連帯を示す場面もあった。柔道男子60キロ級に出場した永山竜樹選手は準々決勝で審判の「待て」がかかった後にスペインの選手に絞め落とされた。非難が殺到する中、永山選手はスペインの選手から謝罪があったことを明かした上で「誰がなんと言おうと私たちは柔道ファミリーです!」とSNSに投稿した。

 パリ五輪には県勢5人も出場し、その姿は私たちに勇気を与えた。国境や言葉の壁を超えて人々をつなぎ、相互理解を深めることが五輪の理念だ。その遺産を引き継ぐ決意を新たにすべきだ。

 28日からはパリ・パラリンピックが開幕する。県勢はゴールボールに安室早姫、マラソン女子(車いすT54)に喜納翼の両選手が出場する。世界で排外的な空気が蔓延(まんえん)する今こそ、「機会均等と完全参加」というパラリンピックの理念の実現に期待したい。