<社説>概算要求減額 県政冷遇なら許されない


<社説>概算要求減額 県政冷遇なら許されない
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 沖縄の振興を支える毎年の予算編成によって県政と市町村行政の関係をゆがめることにならないか。

 内閣府は2025年度の沖縄関係予算の概算要求を2820億円に決定した。4年連続の3千億円割れで、24年度比で100億円減となった。

 沖縄関係予算は政府が沖縄関連の直轄事業や交付金を取りまとめたものである。25年度予算で玉城デニー知事が3千億円台の確保を求めていたが、内閣府は玉城県政の要請に「満額」で応じなかった。県と国は辺野古新基地建設を巡って対立が続いている。こうした状況が予算編成に影響したのであれば残念であり、あってはならないことだ。

 概算要求額のピークは、15年度分の3794億円である。仲井真弘多元知事が辺野古新基地建設に向けた埋め立てを承認した翌年の概算要求で、仲井真県政の要請を全てのんだ上での要求額だった。

 しかし、その後の辺野古新基地問題を巡って対立した翁長雄志県政や玉城県政では減額傾向が続いた。さまざまな社会課題が山積している現状は変わらないのに、15年度分の概算要求から10年で974億円も減少したのだ。

 一方で増額された項目もある。県を通さず国から直接民間や市町村に交付できる沖縄振興特定事業推進費だ。25年度の要求額は前年度比17・6%増の100億円が計上された。予算の減額傾向が続く中でも24年度は前年度と同額が維持され、今回は前年度比15億円増となった。

 19年度予算から始まった同推進費は事実上、県の市町村への配分権を奪い、予算配分を通じて国が地方市町村行政への関与を強めるものだ。国の姿勢に協力的な市町村に配慮するような予算編成は、沖縄の地方政治をゆがめ、分断を招くことになりかねない。

 沖縄振興予算の原点は、沖縄戦と27年の米統治という歴史に対する「償いの心」を示すことだ。今回計上した対馬丸平和祈念事業の1億円はこうした理念の下、80年前の対馬丸撃沈で犠牲となった疎開児童をはじめ県民の遺品収集を含む水中探査などの費用に充てるものだ。

 だが、自立的発展に向け自由度の高い一括交付金の拡充を求めた県の要望は受け入れられなかった。新基地建設に反対する県政を冷遇するような空気が政府にあるのならば許されず、払拭すべきだ。

 27年間、米統治下にあった沖縄は社会インフラ整備や福祉施策が立ち遅れた。復帰後の沖縄振興は本土との格差是正を目的としたものだった。基地負担の見返りに振興予算を充てるという「リンク論」の横行は沖縄振興予算の精神と乖離(かいり)するものだ。

 沖縄の特殊性に考慮した上で、自立的発展の基礎条件を整備し、豊かな地域社会を形成することが沖縄振興策の基本方針だ。国は沖縄の自主・自立を尊重した予算措置に徹してほしい。