夫婦別姓を認める民法改正の機は熟していると言えよう。共同通信が全国の都道府県知事と市区町村長を対象に選択的夫婦別姓への賛否を聞いた調査で、78%が容認する考えを示した。
慎重な考えもあるが、その中でも「国が議論を進めるべきだ」との意見がある。婚姻に伴う女性の改姓が仕事上の支障になるだけでなく、アイデンティティーの喪失など心の痛みとなっている人もいる。国は国民の声に耳を傾けて不利益の解消を急ぐ必要がある。
女性の社会進出を受けて、1996年には法制審議会が選択的別姓の制度導入を答申し、政府は民法改正案を準備したが提出を見送った。それから約30年が経過したが、議論は動いていない。
民法は「夫婦は夫または妻の氏を称する」としている。最高裁大法廷は2015年、別姓を認めていない民法の規定を「合憲」と初判断した。ただ、姓の変更に伴う不利益は否定しなかった。
最高裁大法廷は21年にも民法の規定は合憲との判断を示したが、この際は裁判官15人中4人が「違憲」と判断した。最高裁は「裁判での憲法違反の審査とは次元が異なる」と判示した。立法府での議論を促したのである。
それにもかかわらず、国会では議論は進展していない。立法府の怠慢であり、これ以上の見送りは許されない。
21年の共同通信世論調査では容認を含めた賛成が60%だった。年代別に見ると、30代以下では賛成が70%に上った。若年層でより切実ということだ。改姓を理由に結婚をためらう人がいるのである。
別姓を巡る22年の訴訟で、最高裁第3小法廷では現行規定について裁判官から「姓を変更するか法律婚を断念するかの二者択一を迫るもので、婚姻の自由を制約するのは明らか」との指摘が上がっている。改姓が結婚の障壁となっている実情に照らして、少子化に歯止めをかける上で夫婦別姓についての議論は避けられない。国会での論点整理で司法からの指摘も踏まえてもらいたい。
選択的夫婦別姓は自民党総裁選の争点にも浮上している。導入を明言する候補がいる一方、慎重姿勢も多い。
確認しておきたいのは1996年の政府による民法改正案の国会提出は、自民党内の保守派の反対で見送られたという経緯だ。それ以降の政権は「さまざまな意見がある」として動き出すことはなかった。議論を進めるに当たっては、今回の調査結果のように理解が進んでいる現状をしっかりと直視すべきだ。
住民生活に最も近く、市民らの声に接する基礎自治体の市区町村長らの多くが容認の姿勢である。別姓が強制ではなく、文字通り選択制であることなどを理由に挙げている。こうした制度の仕組みについても幅広くより周知を図ることが肝要だ。