衆院解散 具体策競い選択肢示せ 民主主義を機能させよ


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 衆院が16日、解散された。総選挙は12月4日公示、16日投票だ。2009年8月の歴史的な政権交代から3年4カ月で、再び政権選択選挙となる。
 にもかかわらず何を問う選挙なのか、対立軸も選択肢も見えにくい。民主・自民とも消費税増税に賛成で、国民の過半が望む速やかな脱原発にはいずれも否定的だ。

 東日本大震災の復興は遅れ、原発事故は賠償すら定まらない。周辺国とは武力衝突すら起きかねない緊張が続き、景気も後退局面に入った。政治の遅滞は許されない。各党は国の将来像を示し、具体的政策を競い合い、有権者に選択肢を明確に示してほしい。

公約の反対実現
 それにしても、あの歴史的な政権交代は何だったのか。民主党政権の経過を振り返ると、むなしさが募る。3年前のマニフェスト(政権公約)は今や総崩れだ。
 看板政策の子ども手当は一度も満額支給を達成できないまま、児童手当に逆戻りした。目玉だった国家戦略局設置もできずじまい。「政治主導」は見る影もなく、米軍基地をめぐる閣僚答弁は防衛・外務官僚の振り付け通りだ。
 鳴り物入りで「事業仕分け」を始めたものの、行政の無駄削減も全く中途半端に終わった。米軍は思いやり予算を湯水のごとく使い、1カ月の夏休みで帰国する間もエアコンを付けっぱなしと指摘されて久しいが、その思いやり予算に仕分けのメスが入ったのはただの一度もない。随意契約だらけで腐敗の温床と指摘される防衛装備品(武器)調達もしかりだ。
 普天間飛行場移設について「最低でも県外」と訴えた鳩山由紀夫代表(当時)は首相就任8カ月で辺野古に回帰した。原発事故を受けて「脱原発依存」を唱えた菅直人首相(同)はすぐに腰砕けとなり、民主党は今や少なくとも2030年代まで原発を保持する方向に逆戻りだ。野田佳彦首相に至っては、前回総選挙で党が「任期中はしない」と掲げた消費税増税を強行しようとしている。
 「決められない政治」が盛んに言われるが、この政権は公約実施を決められないどころか、公約の正反対の実現ばかり決めていた。
 自民党も政権転落当時は「ゼロからの再出発」を誓ったが、帰趨(きすう)はどうか。ことしの総裁選も2世ばかりだったのが象徴的だが、議員の世襲など旧来の体質はしみこんだままだ。そもそも福島第1原発の建設を推進したのも、巨額の国債を積み上げたのも、自民党政権である。反省すべきなのは自民党も同じだ。

選挙互助会
 第三極の動きも腑(ふ)に落ちない。太陽の党と日本維新の会は衆院選に向け合流する方向で基本的に一致した。しかし十分な政策一致のない合流は「野合」と批判されても仕方がない。
 これまでの言動からすると「脱原発」について、維新の会の橋下徹代表は肯定的、太陽の党の石原慎太郎共同代表は否定的だ。総選挙で重要な争点となる「脱原発」でのスタンスの違いは決して「小異」とはいえまい。これで合流するのなら「選挙互助会」とのそしりは免れない。
 政権を担い得る大政党が、ことごとく基地問題で沖縄の要求に背を向けているのも解せない。普天間の県内移設がもはや不可能なのは明らかだ。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備も、全地方議会が反対決議したのに強行するのは民主主義の否定に等しい。
 それなのに大政党は持続可能な日米関係を提起しようとしない。沖縄に犠牲を強要する政策はもう成り立たぬ現実を直視すべきだ。
 政治への不信は極限に達している。今やこの国の民主主義は崩壊寸前、危険な状態にある。
 公約を基に国民が政党を選び、選挙後に実現する。それを繰り返す中からしか政治への信頼は生まれない。各党はその原点に立ち返り、民主主義を機能するようにしてほしい。