脱走情報提供遅れ 危険回避の危機感薄い


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 米軍事件が続く中、今度は米軍普天間飛行場から米兵1人が脱走していたことが分かった。さらに問題なのは通報が地元市町村に伝わるまでに12日間要したことだ。
 脱走兵が罪を犯すというわけではないが、過去には強盗殺人事件に発展した例がある。住民の不安を和らげ、リスクを避けるためにも積極的に情報提供すべきだ。

 脱走は、最高刑は死刑の重罪だ。いったん基地から逃げ出せば、金銭的に困り、生活が不安定となり行き詰まって罪を犯す可能性も否定できない。
 現に2008年、神奈川県横須賀市で起きたタクシー運転手強盗殺人事件の犯人は脱走兵で、横須賀基地を拠点とする第七艦隊の巡洋艦乗組員だった。
 それを踏まえて日米両政府は地位協定の運用改善で合意した。在日米軍兵の脱走が判明した場合、日本側に直ちに脱走兵情報を提供し、都道府県警に米兵逮捕を要請することになった。
 米軍は脱走と認定してから1週間後の11月16日、外務省に通知した。同省から渉外知事会、関係都道府県、さらに関係市町村に伝わるまで12日という遅さ。犯罪予防という観点が抜け落ち、危機感に欠ける。先の強盗殺人事件は脱走兵として認定された9日後に起きた。今回の通報遅れは事件から何も学んでいない。
 提供する情報も十分ではない。現在は(1)脱走した年月日(2)逮捕要請を行った米軍施設・区域(3)脱走者数(4)身柄確保の状況―の4項目にとどまる。脱走認定の理由や逃走の詳細な状況、武器の有無など、犯罪の可能性を予見させる情報も危険回避の意味で必要ではないか。
 情報提供の合意の経緯を踏まえれば、義務的・形式的な通報ではなく、犯罪予防につながる詳しい内容でなくてはならない。
 米軍は日頃から「良き隣人」を掲げ、事件が起きるたびに「綱紀粛正」を強調するが、米軍の情報公開や連絡体制には誠実さや真摯(しんし)な姿勢が欠けている。日本政府がそれを助長していると言わざるを得ない。
 深夜外出禁止令も掛け声にすぎず、その後も不祥事が続発している。米軍の統率力は機能せず、軍紀が乱れている。米軍の「綱紀粛正」など沖縄ではもう誰も信じない。本気で信頼回復を望むなら、地位協定の抜本改定か、米軍が沖縄から出ていくかのどちらかだと、日米両政府は肝に銘ずるべきだ。