エジプト抗議デモ 「反独裁」の初心に返れ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 エジプト情勢が風雲急を告げている。モルシ大統領が「革命を守るため」として発布した強権的な改正憲法令が国民の激しい反発を招き、昨年の革命後、最大規模の反政府デモに発展したのだ。
 一部でデモ隊と機動隊が衝突し死者を出した。状況がさらに悪化し、軍と国民の激突、暴徒化という悪循環を招かないよう各当事者が冷静な対応に努めるべきだ。

 6月に民主的選挙で勝利したモルシ氏が半年足らずで、国民の非難対象となる現実は驚きだ。独裁国家の民主化の難しさも痛感する。
 今回のデモの発端は、モルシ氏が自らに超法規的な強権を付与した改正憲法令を発令したことだ。同令は、大統領のあらゆる決定を司法判断の対象から除外。最大の狙いは、旧ムバラク政権下で任命された判事らの介入を排除し、モルシ政権主導の新体制づくりを進めることにあるとされる。
 議会解散で既に行政、立法の両権を有するモルシ氏が司法の監視も受けない超法規的体制を築けば、国民が「ムバラク政権に代わる同胞団の新たな独裁」と危機感を抱くのも無理はない。モルシ氏は自らの民主主義的正統性を否定するような強権の行使は慎むべきだ。
 一方、エジプト紙は最高憲法裁判所が近く、モルシ氏の出身母体であるイスラム組織ムスリム同胞団系が多数を占める憲法起草委員会の解散や、軍の暫定統治復活を命じる方針だったと報道した。陰で何を画策しているのか。エジプト国民ならずとも疑問がわく。
 大統領選が大接戦だったことから政情不安の継続はある程度予想はされた。しかし、だからと言って時計の針を逆に回し、軍主導の政権に回帰するのは時代錯誤だ。
 モルシ氏は大統領就任時のテレビ演説で国民の間にくすぶる「宗教による独裁」との懸念に応え、イスラム教徒やキリスト教徒を含む「全てのエジプト人のための大統領になる」と宣言した。モルシ氏も初心に立ち返ってほしい。
 あらゆる指導層がムバラク政権30年で拡大した、貧富格差への国民の不満と真剣に向き合い、経済・雇用の再生を進めることがエジプト社会にとって何よりも優先課題であることを自覚すべきだ。
 モルシ氏は民主的選挙で軍事独裁との決別を求めた民意を肝に銘じ、民主的改革や国民の対立解消、融和を着実に進めてもらいたい。