鉄軌道調査 導入へ多角的に検証を


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 内閣府は2012年度に行った沖縄本島を縦断する鉄軌道導入の調査結果を公表した。過去の調査と同様、採算性に厳しい見方を示しており、先に公表された「黒字化は可能」との県の調査結果とはかなり異なる。なぜか。

 両者の調査は前提条件が異なっている。特に線路や駅、高架橋などのインフラ部分の整備費負担についてだ。内閣府調査は、鉄道事業会社がインフラの建設・保有から運行までを行う「上下一体方式」の一般的な整備手法が前提。一方、県はインフラ部分は国などの公共予算で整備し、鉄道事業会社は運行に専念する公設民営型の「上下分離方式」による特例制度の適用を想定している。全国の整備新幹線事業で採用された方式を参考にしたものだ。
 内閣府調査では名護-糸満間に30駅(路面電車の場合は41駅)を設定し、北は本部、南は南城、八重瀬、那覇空港につなぐ支線も設けたが、県調査は名護-那覇空港の13駅を結ぶ最短ルートが前提だ。
 内閣府調査ではコストを圧縮するための複数案を検討した。ルートをはじめ小型鉄道「鉄輪リニア」の採用、部分的な単線化、施設の簡素化などで11年度試算よりも14%費用の試算は減ったが、依然採算性は厳しいとの結果だ。
 両者の調査から見えてくるのは、鉄道会社がインフラ整備まで背負えば赤字は必至だが、その負担がなくなれば黒字も可能、ということだろうか。ただ指摘しておきたいのは、鉄軌道は単に事業採算性だけでなく、導入による社会的、経済的な利益を考慮して判断すべきテーマだということだ。
 鉄道がなく自動車に過度に依存していることで生じる県民負担、全国有数の道路渋滞に伴う機会損失、市街地衰退など地域経済への影響、高齢者など弱者へのしわ寄せ、全国一の増加率である二酸化炭素(CO2)排出。多くの課題と突き合わせて議論すべきだ。
 戦争で県営軽便鉄道が消滅し、戦後は国が鉄道を敷設したことのない唯一の都道府県であることをあらためて考ても、県が導入の「前提」とする公設民営型の特例制度適用は、理にかなった要求ではないか。
 コスト圧縮など事業化に向けた現実的課題を今後も一つずつ洗い出していくことは当然として、沖縄の社会、経済にもたらす新たな可能性を多角的に検証し、導入に向けた議論を急ぐべきだろう。