施政方針 自国で民主主義適用せよ


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 言葉が不必要に踊った空疎な作文との感が否めない。通常国会が召集され、安倍晋三首相が施政方針演説をした。「やればできる」と繰り返し、精神論を振りかざしているものの、具体策による裏付けを欠く項目が多すぎる。

 首相はもっと具体的に施策を説明してもらいたい。今国会を通じ、与野党は具体策をめぐってその是非を徹底的に論戦すべきだ。
 演説では「経済再生に向け、みんなで頑張れば必ず実現する」と強調した。だがどのような筋道で実現するのかは示さない。「景気回復の実感を全国に届ける」「年金財政を安定させる」といった言葉もそうだ。
 福島第一原発の汚染水対策もしかり。「国も前面に立つ」と従来の言葉を繰り返すだけで、何をするのか具体策は示さない。これでは演説の意味がない。
 靖国参拝で冷え込んだ中韓両国との関係改善も、「対話のドアは常にオープン」と美辞麗句を弄(ろう)するだけで、具体策は一切ない。難題にまるで向き合おうとしていない、と批判せざるを得ない。
 逆に過剰に冗舌な項目もあった。安全保障の面である。
 首相は自衛隊の災害救助や政府開発援助(ODA)を「積極的平和主義」の表れのごとく語ったが、それはすり替えだ。それらは「積極的平和主義」を振りかざすはるか以前からの活動だからだ。
 安倍首相は集団的自衛権行使に前のめりで、地球の反対側で自衛隊が他国と戦闘行為に入る可能性を否定していない。それなら、むしろ「積極的戦争主義」と称するべきではないか。
 米軍普天間飛行場については「埋め立て申請が(知事に)承認されたことを受け、速やかな返還に取り組む」と述べた。名護市長選の結果を無視し、辺野古移設を進める姿勢を示したものだ。「返還」だけをかざし、「移設強行」を明言しないのはひきょうである。
 一方で首相は「自由や民主主義、人権、法の支配(中略)こうした基本的価値観を共有する国々と連携を深める」と価値観外交推進を強調した。
 名護市長選の民意を無視しようとする人間が「民主主義」を他国と共有できるのか。沖縄に圧倒的な不平等を押し付け、沖縄にだけは民主制を適用しないかのごとき首相が、「人権」を語れるのか。
 価値観外交を言うなら、自国でまずその価値観を徹底すべきだ。