日台漁業ルール 権益確保に最善を尽くせ


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 尖閣諸島周辺海域での日本と台湾の漁業権を定めた日台漁業取り決め(協定)に基づく政府レベルの第3回日台漁業委員会で、操業ルールの一部が合意された。

 八重山諸島北側の三角水域と久米島西側の「特別協力水域」の一部で、操業する漁船間の距離や投げ縄の方法などで日本側の漁法を確保するといった内容だ。
 協定は昨年4月に締結されたが、操業ルールが定まらず、県内漁業者は台湾側とのトラブルを恐れて両水域での操業を自粛していた。今回合意した水域はマグロの好漁場として知られる。4~6月のマグロ漁期を控え、一定のルール確保を迫られる中での合意となった。
 「一歩前進」との評価も聞かれる。しかし、日本側が主張した漁船間隔4カイリ(約7・4キロ)の漁法は全水域では適用されない。日本の排他的経済水域(EEZ)内の交渉事であり、国際法の趣旨に照らせば、本来は全水域で日本側の漁法が適用されるべきだ。
 しかも、八重山北側の三角水域東側は漁船間隔4カイリが基本だが、「日本側は台湾側の船間距離4カイリ操業が必要最小限になるよう努力する」と記すなど、「実効支配」を強める台湾側に配慮、譲歩する姿勢が全体的ににじんでいる。
 県内漁業者に強い疑問や不満が残る合意となった感は否めない。
 三角水域に関しては、実効性を踏まえ操業ルールを見直す旨も確認している。その他水域のルール策定やマグロ以外の魚種、漁船規模など協議する課題はまだ多い。これ以上権益を損ね、不利益を被る合意は許されないということを、政府は肝に銘じるべきだ。
 無線機器を設置し相互に連絡が取れる体制を確保することや、はえ縄など漁具の放棄や他の漁船漁具の持ち帰り禁止、漁船保険への加入推進-でも正式合意したが、徹底した周知と検証が必要だ。
 日台漁業協定は、尖閣諸島をめぐり緊張が高まる中で、中国と台湾の連携を警戒した日本政府が自国のEEZに共同管理水域を設けて台湾側の操業を認めたことで動きだした。
 靖国神社参拝に象徴される保守強硬路線で自ら緊張を高め、外交摩擦の付けを国境の漁民に回すような政治の舵(かじ)取りは不当であり、厳に慎まなければならない。
 政府は県内漁業者の声を受け止め、安全で安定した漁業環境の確保に最善を尽くす責任がある。