<南風>多様な人集う書店の風景


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ジュンク堂開店から1カ月たったころ。夜遅くの時間だったか、1階フロア奥で熱心に立ち読みしている男性がいた。その男性の前の本棚には缶ジュースらしきものが。改めてよく目を凝らして見ると、ジュースではなく缶チューハイだ。

 大抵の書店は飲食禁止であり、アルコールはなおさらである。周りにお客さまもおらず、閉店も近づいていたこともあり、見なかったことにしたのだが、ここ沖縄で人が来るのか分からない数カ月前を振り返れば、店に立ち寄ってくれたこと自体がうれしかった。

 1時間ほどして再び店舗を巡回してみると、男性は立ち読みしていた。目の前の同じ位置にまだ缶が置いてある。え? 缶の銘柄が変わっているではないか。当時地下売場にはスーパーがあり、そこで買い直したようだ。注意する前に不覚にも思わず笑ってしまった。最後にはごめんねと、うれしそうな顔をされ、本を買って帰られた。

 別の日。うれしいことに連日、開店前からお客さまが入口に並ばれるため、お出迎えした時のこと。1人の男性が勢いよく店内に走って行く。何ごとかと追いかけてみると、店内のコンセントに電気シェーバーを差してヒゲをそっている! さすがにすぐ声をかけたが、どうしても急がなければならず、ジュンク堂を思いついたとのことだった。

 一方、今度は貴婦人との言い方がぴったりな、上品な年配女性が店内のベンチに腰かけ、お弁当を広げて食べていた。桜のお花見ならぬ、本棚に囲まれて食事をしてみたかったとおっしゃった。沖縄に限らず書店とはどんな小売業よりも老若男女、いろいろな方が来られる業種で、さまざまなことが起こる。明日はどんなことが待っているのだろうかと、楽しみであったし今も気持ちは変わらない。もちろん一線はあるのだが。それではまた次回!
(森本浩平、ジュンク堂那覇店 エグゼクティブ・プロデューサー)