<南風>性暴力の本質


社会
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 性犯罪規定改正で改正されなかった点がある。被害者が13歳以上の場合、被害者の犯行を著しく困難にする程度の「暴行・脅迫」が必要とされる点である(監護者による犯罪については次回)。かなり強い程度のものであり、かつ被害者には最後まで抵抗し続けることが求められている。このことには三つの問題点がある。

 まず、加害者が被害者に対して優越的な地位を有している場合、そもそも「暴行・脅迫」などなくても、被害者は逆らうことができないことが多い。例えば教員と生徒、スポーツなどのコーチと生徒、大学教員と大学院生、上司と部下など。殴ったり、脅したりしなくとも、「断ったらどうなるかわかるよね」と笑顔で言われれば、被害者は「忖度(そんたく)」せざるを得ないのだ。そして、苦痛でしかない性的行為に耐えた後も関係性は続く。これは明らかに性暴力だ。

 次に、被害者の犯罪の前後の行動についてだ。直前に親しげに話していたり、お酒を飲んでいたとしても、その後に性暴力がなかったという証拠には全くならない。知り合いだったり、友人だったりすることと性行為に同意することは全く違う。しかし密室で行われることが多く、証言が食い違うと、そこに至る前の被害者の行動が問題にされたり、ついていった方が悪いと言われることすらある。

 最後は被害者の抵抗についてだ。人は本当に怖い時には声など出ない。身がすくむ、凍り付くなどの状態だ。しかし、助けを求めなかったなどの理由で同意ありとされた事件も多い。また、これ以上抵抗したら殺されると思っても、抵抗をやめたら同意ありとされることもあるのではたまらない。

 性犯罪の多くは、顔見知り以上の関係によって室内で行われる。暴行・脅迫や被害者の抵抗の問題ではない。同意がないとわかっていて、他人に性的行為をすることが性暴力の本質なのだ。

(矢野恵美、琉球大学法科大学院教授)