<南風>T君との再会


社会
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 先日、町中を歩いていると、教え子のT君とばったり出会った。大学時代に家庭教師をした生徒のひとりで、実に30年ぶりの再会だった。大阪で鳶(とび)職をしていて、久しぶりに沖縄に帰って来たという。中学時代のヤンキー顔はすっかり消え、逞(たくま)しい大人に成長していた。元気そうだった。お互いの近況を報告し、携帯番号を交換したところで、不意に彼が言った。「実は俺、先生に会ったら、謝ろうと思っていたんだ。せっかく、希望の高校に入学出来たのに、途中で辞めてしまってさ、ゴメン、先生」。そう言ったきり、黙ってしまった。あの1年間が、学校生活の中で一番楽しかったとも言った。驚きだった。

 思い起こせば、家庭教師の日、彼は何度も家にいなかった。母親と一緒にゲームセンターを捜し回り、連れ戻したことも一度や二度ではない。ある時は、暴言を吐いて母親に殴りかかったので、痛棒を食らわすと、ハラハラ泣いた。それもこれも、彼の満たされない心の叫びだったのか。居場所が見つからない苛立(いらだ)ちだったのか。成績も内申書も惨澹(さんたん)たるものだった。

 そんなある日のこと、過去の問題集を解かせてみると、これが、意外にも彼の興味を引いた。何度か問題を解いているうちに、コツを掴(つか)んだのか、次第に分かるようにもなった。高校合格を目標に、彼と私の二人三脚の日々は、ここから始まった。

 うれしいことに、母一人子一人の母子家庭で育った彼が、今は、親子三世代で、一つ屋根の下に暮らしているという。彼の提案もあり、後日、母親とも会えることになった。目の前の自立したT君は、いかにも頼もしく、もはや中学時代のような彼ではなかった。私は、今日の再会に感謝しながら、今来た道を戻り始めた。夕暮れ時の商店街は、いつになく華やぎ、輝いて見えた。
(山城勝、県経営者協会常務理事)