<南風>月桃


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 若夏の季節、あちこちで月桃の花が咲いています。先の尖(とが)った大きな真緑の葉の間から白い花房が覗(のぞ)いています。初めて見たのは40年も前の西表島です。その時は花が終わり、黄緑の実が房状に連なっていました。どんな花がこんな愛らしい実をつけるのか印象的でした。

 2004年に夜間中学校が開設されて以来、入学生の聞き書きをしています。これまでに130人以上の方々から話を聞いてきました。第1回入学を祝う会の折、一人の生徒が笑顔で「まちかんてぃしていたさぁ(待ちかねていた)。7歳の時から自分が通える学校がいつか出来ると思って60年待っていた。夢はいつか実現するものなんだねー」と語り掛けてくれました。この「まちかんてぃ」が珊瑚舎スコーレの『学校をつくろう!通信』に連載してきた「聞き書き」の題名になりました。

 「まちかんてぃ」のシンボルマークは月桃の花です。これもある生徒さんの話からもらいました。

 〈小学5年生の時、遊び時間の校庭で事故にあい、股関節がダメになり満足に歩けなくなりました。金もなく保険制度もない時代です。まして事故の責任とか補償という考えもありませんでした。それ以来学校は終わりです。年をとっても勉強したい、基礎を学びたいという思いが渦巻いていました。心の中に成長していない少女のままの気持ちがいっぱい詰まっているのを感じます〉

 〈5月は月桃の花の季節です。この花だけは戦争が終わってなにもない瓦礫(がれき)の中でも変わらず咲いていました。入学式のみんなの喜んでいる姿、弾んだ声がこの花と重なりました。花は小さいけど純白とピンクで、世間ずれしていない少女のようです。学校に通う道で、この花を見ると夜間中学校のみんなに似ているねぇ。同じ想(おも)いねーと思います〉と語っています。
(遠藤知子、珊瑚舎スコーレスタッフ)