コラム「南風」 教育は信頼のベクトルで


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 「自分はわが子を託したくなる教師か?」。生徒を成長させる責任を負う教師として、常に自問自答し「授業で勝負」を座右の銘にしてきた。先生方の多くは、誇りと信念を持って自らの描く教師像に向かい、日々頑張っている。大方の親も、わが子を託した教師に信頼の念を抱く。だが、残念なことにごく一部の親の心ない言動で、誇りと自信を失いつつある教師がいる。

 近年の核家族化と少子化は教育環境を猛烈なスピードで変化させた。子育ての悩みを相談できる親兄弟が身近におらず、地域との関わりも希薄になった。孤立し、自分の子どもだけと向き合う状況で、モンスターペアレントと呼ばれる親までも出現させてしまった。
 かつては、地域やおじぃ、おばぁが関わって吸収してきた子育てや教育上の不具合に、親と教師が大きな比重で直接向き合うことになった。結果、さまざまな現象が親と教師に起きている。特に、わが子の担任教師を批判する親が増えた。三歩下がって影さえも踏まれなかった日々は、はるか昔日の彼方にある。
 私自身も苦い経験がある。授業参観の翌日、ある子に「『社会科の授業が上手じゃない』と母さんが言ってたよ」と言われた。その場は「先生、もっと頑張るね」と応えたが、残念なことに、以後、その子の授業態度は社会科に限らず悪くなっていった。子の前での安易な教師批判は確実に子どもをダメにする。
 教師はもちろん、授業の質を高める努力、親の指摘に耳を傾ける謙虚さ、子どもから学ぶ柔軟さが必要だ。一方、親も担任の頑張りを認め、先生を育てるぐらいの気持ちを持ってほしい。親の教師への信頼が良い教師を育て、子どもの健やかな成長につながる。教師と親のベクトルが違うはずはない。子を託す親と託される教師の信頼関係が最も必要な時代ではなかろうか。
(知念春美(ちねんはるみ)、前普天間第二小学校長)